相談七十四 出家しようと思います 光源氏(京都)

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あの人はいないのに、季節だけはいつも通り巡ります。紫の上が好きだった春が来て、花が咲き始めても、それを喜んでくれる人ももういません。どこを見ても空しく、思い出されるのは紫の上のことばかりです。雀の子を追いかけて走り出してきた春の日。二条院に初めてやってきた十歳のころ。お人形遊びをしたり、私とふざけたり、本当にかわいい人でした。初体験の時にはすねて夜具から出てきませんでしたっけ。そして須磨の別れ。あの人にはつらい思いをさせました。なのに明石の君に心を分けたりして。そして女三の宮のこと。自分よりも身分の高い正妻と結婚して、あの人はどれほど傷つたでしょうか。紫の上はそんな苦しみを顔には出しませんでしたが、密かに涙を流していたのは気づいていました。それでも私には笑顔で接してくれていました。

私はあの人のいない毎日を、悲しみに浸り、女房達と思い出話ばかりして過ごしています。こんな状態では人前で失敗もしでかしそうで、人に会うことも滅多になくなりました。あの人の丹精した庭の花が咲いては散るのを眺めているだけです。時にはほかの妻達を訪れることもありますが、女三の宮は人の気持ちを考えてくれないし、明石の君を訪れても、夜をともに過ごそうと思えなくなったのです。

そうやって嘆き悲しんでいるうちに夏が過ぎ、秋になりました。紫の上の一周忌法要には彼女が作らせた極楽の曼陀羅などを供養しました。来春には出家の本懐を遂げるつもりです。そろそろ準備にかからなければいけません。あまたある恋の手紙も紫の上の手紙も焼き捨てました。立ちのぼる煙を見ていると、さすがに涙がこぼれます。年末には恒例の御仏名の行事を執り行い、久しぶりに大勢の人々の前に顔を出しました。もうじき新年です。年が明ければ、私は出家します。最後の年賀のための準備は盛大にしましょう。紫式部さん、私の話を最後まで話を聞いてくださってありがとう。さようなら。

回答                      紫式部・作家
悲しみの底に沈んでいたあなたも、ようやく顔を上げられるようになったのですね。とうとうご出家ですか。精一杯の功徳を積まれますように。思えばあなたとのおつきあいももう五十二年になります。長いですね。あなたは生まれて間もなく母を亡くしてから、数々の恋に身を焦がし、涙を流してきました。中には許されない恋もありました。位人臣を極め、栄華を誇ったときもありましたが、危ない橋を渡ったり、失意の日々もありましたね。紫の上の死は中でももっともつらい出来事だったでしょう。正直、このまま立ち直れないのではないかと思いました。でも、あなたはようやくそれも乗り越えたようです。何だか安心しました。
それでは私もそろそろ店じまいをいたしましょう。また、お目にかかれるのを楽しみにしています。

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相談七十三 最愛の人を失いました   光源氏(京都)

紫式部さん、私の話、いや、紫の上の話をさせてください。八月十四日の朝早く、彼女が息を引き取りました。幸い、私と明石中宮がそばにいて看取ることができました。亡くなるしばらく前、ずいぶん気分がよさそうにしていたので、それほどすぐとは思いませんでした。彼女が少しでも元気なだけで、私はとてもうれしかったのです。一緒に庭の萩の花などを見て過ごしていたのですが、急に具合が悪くなって、夜明けごろに臨終を迎えたました。

前のような、物の怪の仕業かも知れないと思いましたが、今度こそは本当のようです。こんなに早く逝ってしまうなら、どうして出家させてやらなかったのだろう。せめて髪を下ろさせようと思ったのですが、夕霧は「完全に亡くなったのであれば、髪の形だけを変えても功徳にはならない、悲しみが増すだけだ」というのです。それももっともなことです。夕霧は誦経のことなども取り仕切ってくれました。いつの間にか頼もしい男になっていたのですね。葬儀は翌十五日に執り行い、彼女は天に昇る煙になってしまいました。

先立たれてから様々な人が弔問に来てくれますが、私は涙に暮れるばかりです。いままで父帝や葵の上、藤壺様など様々な方を見送ってきましたが、これほどつらい別れはありませんでした。いま思えば、紫の上が法華経供養を執り行ったのは、自分の功徳を積むだけではなく、生きている人みんなに別れを告げるためだったのですね。私はそれでも、千年でも彼女とともにいたいと思っていました。別れは目の前に迫っていたのに、それを考えることができなかった。人生も終わりに近づいてこんなに悲しい別れを経験するとは。せめて、私が出家して彼女の菩提を弔いたいのですが、死に別れた悲しみから出家するのだと思われるのも心外です。あと少し、彼女の死を悼みながら、濁世で生きていこうと思います。

回答                      紫式部・作家
いま、私が何を申し上げても、その場しのぎの慰めにしか聞こえないでしょう。涙に曇ったあなたの目には秋の野も、色鮮やかな紅葉も見えないほどでしょうから。ちょうど風が冷たくなる季節。葵の上様が亡くなったのもこのぐらいの季節でしたか。寂しさも一層身にしみますね。
そんなときには我慢せずお泣きなさい。悲しむだけ悲しむ方が、気持はいやされるのです。もちろん、弔問に来られる方に、みっともない姿は見せられないと思われるでしょうが、気の許せる方、わかってくれる方はいるはずです。いつもより、少しだけ素直になってお気持ちを見せると、気も楽になりましょう。
まあ、妻を亡くして悲嘆に暮れて出家したと思われたくない、というのはあなたの最後の矜持でしょう。それが光源氏の光源氏たるゆえんかも知れませんね。落ち着いたら、また色男ぶりを見せてくださいね。

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相談七十二 夫を残して死ぬのが心配です   紫の上(京都)

四年前、大病を患ってから私の体調は常にすぐれず、寝たり起きたりの生活で衰弱し、光源氏様はずいぶんご心痛の様子です。おそらく、私はこの人より先に世を去るでしょうが、一人残していくと思うと、とても気がかりです。子どももないので、無理に生き延びようとは思わないのですが、この人のことだけが心残りです。私自身は、仏道に励み、様々な仏事も催して功徳を積もうと考えています。できれば長年願い続けている出家の本懐も遂げたいのですが、光源氏様はそれだけは絶対に許してくださいません。出家すれば住まいも離ればなれ。このような病身の私が出家することが気がかりで仕方ないのでしょう。ほかの方は、次々出家して行かれるのに、私だけが取り残されたように思います。

先日は二条の院で一千部の法華経供養を行いました。ずいぶん時間をかけて準備したので、我ながら盛大な催しになりました。親王様や上達部などに加え、花散里様や明石の君なども参列してくださいました。光源氏様がおもてなしを、夕霧様が音楽を受け持ってくださったので、みなさま喜んでいただけたと思います。この人たちの姿を見るのも、これが最後でしょう。
夏を迎えてから、私の体はますます弱っています。おそらく秋を見ることはないと思っていました。私のこのような様子を知って明石中宮が御所から退出し、二条の院に滞在してくれています。中宮をお迎えする儀式もこれが最後ですね。私に仕えてくれていた人たちは明石中宮に託しました。彼女の子の匂宮の成長も見届けたいと思いますが、もうそれもかないません。せめて庭の紅梅と桜を私の代わりに愛でてくれれば…。何とか秋まで持ちこたえ、八月を迎えました。一日、少し気分がよくて起きていたのですが、光源氏様はそんな小さなことすらうれしそう。私が死んでしまったら、どんなに嘆かれるでしょうか。それを考えると、本当に悲しくて…。

回答                      紫式部・作家
わずか十歳で光源氏様のもとに来られてから三十三年。長い年月を一緒にお過ごしになりました。その間光源氏様とご一緒に過ごされて、いいことも悪いこともたくさんおありでしたね。あなたはきっと光源氏様の心に消えることのない想い出をたくさんおつくりになったことでしょう。もちろん、明石の君のことや女三の宮様のことではずいぶん苦しまれたことでしょう。でも、そんなときでもあなたは光源氏様の一番大切な人だったのですよ。
あなたとのお別れのときはもう間近のようですね。光源氏様の嘆きはいかばかりでしょう。とはいえそれが人の世の常。愛別離苦は逃れられない苦しみです。光源氏様も受け入れるしかありません。光源氏様に妻はたくさんありましたが、あなたは特別な人でした。あなたの面影は彼の心にいつまでも生き続けるはず。それが彼の支えになるでしょう。


Shirohagi

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相談七十一 私は何か間違ったことをしたでしょうか  夕霧(京都)

Kikyou

紫式部さん、私はちょっと疲れてしまいました。なぜ、女二の宮様はあれほど私を頑なに拒まれたのでしょうか。言葉を尽くして気持を伝え、さらに一条の邸を手入れし、女二の宮様をお迎えできるように準備を整え、その上で結婚できるように手配したのに、この上何が不足というのでしょう。確かに、一夜小野で過ごしたところを律師に見られ、あらぬ噂を立てられたため、一条御息所様がお悩みになったことは知っています。あの人はそれだけで私を許されないのでしょうか。一条の邸に戻られてからも、私を無視して塗籠に籠もってしまわれました。あまりにも幼い仕打ちです。最初の夜は塗籠の中にも入れてもらえず、泣く泣く帰るしかありませんでした。次の日、女房たちの手助けで、ようやく別の出入り口から入ることができ、女二の宮様と結ばれました。

女二の宮様の方はこれで一応落ち着いたのですが、三条の邸の雲井雁がまた、手に負えません。この人もとても子どもっぽく、昼間からふて寝をしているのです。自分はもう鬼になるのだとかいって(笑)。でも、この人は性格がかわいらしいので、私が何くれとなくいってやると、機嫌もなおっていきます。そうするとまた、女二の宮様の方が気になって。放っておくとあの人は出家でもするのではないかと心配になるのです。

それで、女二の宮様のところへしばらく行っていると、今度は雲居雁が里邸へ戻ってしまいました。手紙を出しても、迎えの車をやってもまったく無視。仕方なく迎えに行って見れば、子どもも放り出して弘徽殿女御様のところでおしゃべりしているのです。結局、戻っては来ず、私は子どもの面倒を見ながら、一人で寝ることになってしまいました。何だか、女二の宮様にも快く受け入れられず、雲居雁にも見放されたような、中途半端な立場です。私は何か間違ったことをしたでしょうか。

回答                      紫式部・作家
本当にあなたは不器用な殿方ですね。女二の宮様については、噂が立ったのを幸い、一条御息所のご希望のように見せかけて強引に事を運ぼうとなさったのでしょう。ご本人のお気持ちは無視ですか。女二の宮様といえば、雲居雁様のお兄様の妻。難しい立場におありです。もし、あなたの心を独占してしまえば、雲居雁様のご両親はどう思われますか。あなたはそんな女二の宮様の立場も考えず、勝手に事を進めたのです。それはやっぱり嫌がられるでしょう。しかも、一条御息所様が亡くなったばかりの時に。
それにあなたは一本気ですから、雲居雁様にすれば、あなたが女二の宮様のところに行ったっきりになると思ったのでしょう。あなたは自分からどちらの女性も不安にさせているのです。妻を何人も持つなら、誰にも文句を言わせないような男になりなさい。あなたの父君を少しは見習うべきでしょうね。

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相談七十 夫が女を作りました  雲居雁(京都)

幼なじみでいとこ同士の夫と恋仲になってもう十七年。少年と少女だった私たちも十一年前に結婚し、いまはたくさんの子どもを授かって幸せに暮らしていました。夫は大将に出世し、何も不満はなかったのです。さすがに私は日ごろの家事や子育てが忙しく、なかなか昔のように夫と語らうこともなくなって参りました。

ところが最近、夫が女を作ったのです。最初は夜遅く帰ってきて、月を見たり、笛を吹いたり、妙に風流ぶっていただけでした。その前に私はちらりと、夫が女二の宮様に恋をして訪問しているなどと小耳にはさんだのでその影響ではないかと疑っていたのですが、その後はやはりいつも通り真面目な夫だったので安心していました。
ところがその後、女二の宮様もいる小野の山荘を訪ねて朝帰りをしたり、急死された一条御息所様のご葬儀や法会の手配をしたり、明らかに夫は女二の宮様に必要以上の好意を持っている様子。挙げ句の果てに、とうとう女二の宮様を妻にしたようです。一条の女二の宮様の邸を手入れさせ、主人同様に振る舞っているとか。この数日は行ったきりで、この邸に戻っても来ません。

だいたい、女二の宮様は私の兄、故柏木の妻でした。夫は兄の親友で、義弟でもあります。なのに、こんな結婚をして、私や両親、兄までないがしろにしているとしかいいようがありません。新しい女ができても、すべての気持ちを相手に移すとは思っていませんでしたが、実直な人が恋に落ちるとのめり込むというのは本当だったのですね。もう、あの人は所帯じみた古女房に関心はないのでしょう。それなら私が出て行ってやります。先ほど、子どもを連れて両親の家に戻ってきました。あの人がなんといっても、三条の邸に戻るつもりはありません。あの人からは手紙や迎えの車が来ますが、ひたすら無視しています。私の気持ちを思い知るがいいんですわ。

回答                      紫式部・作家
まあ、ずいぶんお怒りですね。それは無理もないでしょう。結婚以来、あなたのほかの女性といえば、惟光の娘さんの藤典侍さんだけですものね。あちらは身分からいってもあなたの立場を脅かす方ではありませんから、いままでは安心していられました。でも、今度のお相手は内親王です。しかもあなたのお兄様の妻だった方。お子様も含めて、何もかもすっかりあちらへ持って行かれそうな気がなさっているのですね。でも、こんなに夕霧様に反抗的に家を出られては、周囲からも軽率に思われます。あなたは夕霧大将の家の、立派な家刀自です。ご自分の立場を信じておうちに戻られてはいかがですか。夕霧様は、一本気で恋愛下手なので、いまは向こうに行きっきりですが、決してあなたや子どもたちを見捨てることはないでしょう。不器用な男性ですが、しばらく、温かい目で見守って差し上げてください。


Asatuyunomukounis

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相談六十九 亡夫の親友に迫られています     女二の宮(京都)

Monotohnnosora

母が亡くなってから夕霧様は弔問や葬儀など心を尽くしてくださいます。でも、私はあの人の心ないふるまいが、母を死に至らしめたと思うと、お手紙すら触れる気になりません。私は小野の山荘で出家してしまおうと思っていたのですが、父の朱雀院に強く止められてしまいました。父の耳にも夕霧様のことが入っていたのかも知れません。その上、あの人は私が一条の邸に戻る手配までする始末。私は戻りたくなかったのですが、女房らに強引に説得されたうえ、荷物まで運び出されたので仕方なく戻りました。邸では夕霧様が主人面であれこれ取り仕切っています。私はまだ、あの人との結婚を承知したとも何とも申しておりませんのに、このように思いがけないふるまいをなさるなんてとても不快でした。

私はまだ母の死の痛手から抜けきっていません。あの人とのことであらぬ誤解をしたまま、煩悶しながら亡くなった母。母の死の一因はあの人にもあると思うのです。なのにこのふるまい。思いやりがなさ過ぎます。そればかりかあの方は、私が承知もしていないのに、強引に寝室に踏み込んでこられました。私は塗籠に入って、内側から鍵をかけて立てこもってやったのです。だけど、こんなこともただの時間稼ぎにしかなりませんわね。外からは夕霧様が「少しだけ戸をあけてくださいよ。お話ししたい」などとおっしゃいますが、聞き入れるものですか。その夜はこそこそと出て行かれました。翌晩も私は塗籠に立てこもったままでした。女房たちは私を子どもっぽいといい、夕霧様も大人げないとおっしゃいました。女房はあの人を気の毒に思ってか、別の出入り口から夕霧様を入れてしまいました。なんてひどい。でも、結局あの方の思いのままになってしまったのです。母の喪中にこんな亡夫の妹の夫とこんな関係になるなんて、外聞の悪い…。

回答                      紫式部・作家
心と裏腹の、強引な結婚。おつらいですね。しかもお相手は、亡くなった柏木様の義弟とあっては、柏木様のご実家にも、妹の雲居雁様にも申し訳ないですものね。そんなことも顧みず、あなたと結婚しようとした夕霧様は、実に強引で、厚かましい方だとお思いでしょう。
本当にあの方は恋愛が下手なのです。いままで恋愛経験がほとんどないので、ゆるやかな恋をすることができず、好きになったら結婚しなくてはいけない、と思いこんでいるようですね。だからこんなに唐突に、あなたの気持ちを無視した行動に出られたのです。しかし、あの方は夫として悪い相手ではありません。柏木様より、あなたを大事にしてくださるでしょう。雲居雁様には気を遣われるかも知れませんが、あちらもお嬢様育ちで鷹揚な方です。あなたは出過ぎず、この方のことは夕霧様に任せておけば、それほど大きなもめ事は起こらないでしょう。

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相談六十八 未亡人になった娘の異性関係について  一条御息所(京都)

未亡人というのは、よほど身持ちを堅くしていないと、何かと人の噂に上りやすいものなのでしょうか。娘の女二の宮は朱雀院の計らいで致仕大臣(=元頭中将)の長男の柏木様と結婚しました。柏木様は娘を大切にはしてくれましたが、あまりご執心でもありませんでした。それが、2年ほど前急に病みついて他界してしまったのです。柏木様はご実家に引き取られたため、娘は最期もそばにいることができず、とても悲しい思いをいたしました。

その後、故人の親友の夕霧様が心を尽くしてお世話してくださったので、私たち母娘もずいぶん助けられていました。先日もわざわざ小野まで私の見舞いを兼ねて足を運んでくださっていました。ところが翌朝、祈祷に来ていた律師が、夕霧様はいつから娘のところに通っているのかと聞きます。律師はもうふたりが男女関係にあると信じ切っているようで、さらにこの関係を反対します。何でも、本妻の雲居雁様はご実家の威勢も強く、お子様も七、八人おありとか。娘がどう頑張っても勝てないというのです。さらに本妻の怒りを買えば、長期にわたって障害になるだろうから賛成できないと反対します。

娘の女房はそれを否定するので、本人に確かめようとしたところ、ちょうど夕霧様から手紙が届きました。その手紙も娘の冷淡さをなじったり、どこかいい気になっていたり、あまり感じのいいものではありません。その上夜は訪れないなんて。私は前夜のことはかりそめだったのかと、問いただす手紙を書いたのですが、丸一日以上経っても本人どころか返事すら届きません。後々どのように噂されるかも顧みず、娘のことを思う一心で手紙を書いたのに、この不誠実さ。娘も外聞の悪い。もう気分が悪くなってきました。こんな夜になって、夕霧様の手紙が届いた様子。ということは、今夜も来られないのか。ああ、情けなや。

回答                      紫式部・作家
ずいぶんお加減が悪そうに思えるのですが、大丈夫でらっしゃいますでしょうか。お読みいただいていると信じ、ご回答申し上げます。
女二の宮様のことでは、ずいぶん胸を痛めてらっしゃるご様子。お気持ちお察し申し上げます。確かに夕霧様の態度は、一般的な恋の手続きから見れば、ずいぶん唐突で、また、不誠実に思えますね。ですが、あの方は恋愛がとても下手なのです。どんな風に女性に言い寄るべきか、どんな風に気持を表現すべきか、よくわかっていないのです。そのため、女二の宮様はずいぶんご不快な思いもされたようですが、ここで少し味方しておきますと、お気持ちだけは誠実な方です。夕べ来られなかったのも、一生懸命恋心を押さえているからです。この先も、いくらご本妻のご威勢が強くても、お子様がたくさんいらっしゃっても、どちらも公平に扱われるでしょう。夫にするには悪くない人です。

Sazanami2s

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相談六十七 これが恋というものでしょうか    夕霧(京都)

Tachibana

紫式部さん、この年になってこんな気持は初めてです。確かに、雲居雁や藤典侍と出会ったとき、好きという気持は経験しましたが、身も心も熱くなるような思いは、いままで味わったことがありません。これが恋というものでしょうか。
こんな気持になったのは、あの人の琴の音を聞いたときか、いや、もしかしたらあのときにはすでに私は恋をしていたのかも知れません。親友の妻だから、遺言で託されたからと口実を設けて女二の宮様を訪れていましたが、本当は少しでもあの人のそばにいたかったのです。雲居雁は女二の宮様に会って、気もそぞろな私の様子を敏感に感じ取ったのか、なにやら不機嫌でしたっけ。

その後、一条御息所様は物の怪に悩まされて小野の山荘に籠もられてしまいました。当然女二の宮様もご一緒です。なかなか足を運べませんでしたが、ようやく八月の二十日ごろ、出向くことができました。せまいところゆえ、女二の宮様の気配も手に取るようにわかります。一条御息所様のお見舞いなのに私はまるで上の空。ああ、若いときから恋愛経験豊かだったら、もっと気の利いたことばもかけられるだろうに。きまじめに過ごしてきた自分を情けなく思いました。この夜は一晩小野の山荘に泊まってしまいました。でも、女二の宮様と何かあったわけではないのです。ただ、立ち去りがたくて…。部屋へ入ろうとする女二の宮様の着物を捉えてその場にとどめてしまったのは私の勇み足でした。あの人の意に染まないことをするつもりはなかったのですが、私の気持ちを知ってほしくて、必死で思いを伝えようとしだけだったたのです。だけどあの人はわかってくださいませんでした。男を知らない処女でもないでしょうに。結局この日は何もなく、人目を避けて早めに家に帰ったのですが、どうすれば私の気持ちをわかってもらえるのでしょうか。

回答                      紫式部・作家
おっしゃるように、あなたは恋というものを、女心というものをご存じないようですね。本当に「処女でもないでしょうに」なんて、女二の宮様におっしゃったのですか。とんでもないことばですよ。女二の宮様はご自分がずいぶん軽んじられていると感じたでしょうね。夫を亡くした女だから、簡単になびくと思っていませんか。一条御息所様や女二の宮様は、あなたが柏木様の親友で、思いやり深い方だからこそ信頼を寄せておられたのですよ。なのに、いきなりあなたは女二の宮様に迫ったのですか。本当に軽々しい。いままで築き上げた信頼も、信用も軽はずみな行動のせいで一気に失ってしまいましたね。しかも朝帰りですか。雲居雁様もきっとお怒りのはずです。いままでこんな修羅場も経験のないあなたは、どのようにこの場を納めるのでしょう。その自信がなければ、この恋はおやめなさい。あなたの手に余るはずです。

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相談六十六 出家して亡母の罪を償いたいのです…    秋好中宮(京都)

Yukiyanagi

母の六条御息所が亡くなってずいぶん経ちます。娘として一通りの供養はしてきたつもりですが、母はどれほど業が深いのでしょうか。いまも怨霊になって光源氏様やその周囲の方々を悩ませていると噂されています。

先ごろ紫の上様が、一時絶命されたのも、母の怨霊のせいだと聞きました。やはりそうか、という気がいたします。幸い、紫の上様はご運が強く、蘇生されましたが、母は何と恐ろしい怨霊になってしまったのでしょう。そして先だっての女三の宮様のご出家も母の仕業だったとか。女三の宮様が光源氏様の冷たい扱いに絶望されて、出家なさったという噂もありましたが、そこに至るまでも母の怨霊がいろいろと悪さをしていたと聞きました。光源氏様は厳重に噂を隠しておられましたが、やはり人の口に戸は立てられません。自然と私の耳にも入って参りました。何と忌まわしいことでしょう。

目を閉じると、母が地獄の業火に焼かれている姿が目に浮かびます。やはり、ひととき私が齋院として神域に籠もり、御仏のご加護から離れていたせいで母はこのように苦しむのでしょうか。母が亡くなった当時は、先立たれた悲しみにばかり浸っていて、あの世での苦しみに思いが至りませんでした。しかし、このような話を聞きますと、できれば出家して御仏のお話をしかるべき人から教わり、私の力の及ぶ限り、母の供養をしたいと思うようになっています。
しかし、なかなか出家もかないません。現在、私は冷泉院とともにまるで普通の夫婦のように暮らしており、なかなか里にも戻れないくらしです。冷泉院はもちろん、光源氏様にもそれとなくご相談いたしましたが、当然お許しはいただけません。朧月夜様にしろ、女三の宮様にしろ、世間のみなさまは次々出家なさるのに、私一人が取り残されたようで、恨めしく、また、母が不憫でなりません。どうすればよいのでしょうか。

回答                      紫式部・作家
お母様が怨霊になってしまったなんて、噂にしろおつらいですね。そのような話が世間の人の口に上るのも、耐え難いことでしょう。ご供養のために出家なさりたいというお気持ちもよくわかります。生きているものにできるのは、それぐらいのことしかありませんものね。ですが、いまの状況では冷泉院も光源氏様も同意なさらないでしょう。そのような状況で無理にご出家なさるのもどうかと思います。出家できるかどうかはやはり仏縁によります。お話を伺っていると、まだ中宮様はご出家には遠いところにいらっしゃるように思います。仏縁が結ばれれば自然とご出家の道も開けるでしょう。それまで、いろいろとお悩みはつきないと思いますが、まずは追善供養などをなさって、お母様の菩提を弔われるのがよろしいかと思います。それが六条御息所様へのせめてもの手向けではないでしょうか。

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相談六十五 親友の遺言が気になります 夕霧(京都)

Tubaki

柏木が亡くなってからご両親の嘆きは一通りではありません。お二人とも涙の海におぼれてしまいそうです。柏木の妻の女二の宮様やその母君の一条御息所は、亡くなるときもそばにいられなかったので、悲しみはひとしおです。これほど多くの人に惜しまれている柏木ですが、亡くなる直前、気になることを私に言い残しました。

彼が臥せっていると聞いた帝が、昇進すればまた参内するだろうと、権大納言の位につけてくださったので、私は昇進祝いを兼ねて彼を見舞いました。そのとき、柏木は、父・光源氏の機嫌を損ねたまま許してもらえなかったとか、朱雀院の五十のお祝いの時に、父と目を合わせたためにますます長生きできないように思えてきたなどと話していました。さらに、何かの機会に父に弁明してほしいとまでいいます。彼は一体何をしたのでしょう。もし、もっと早くこのことばを聞いていれば、私が間に立って取りなしたのに。さらに彼は、一条の宮にいる女二の宮様を時々は見舞ってほしいなどと言い残しました。このときにはもう、自分の死期を悟っていたのかも知れません。それからすぐ、彼は泡が消えるように死んでしまいました。

それにいぶかしいのが柏木の死の直前の女三の宮様のご出家です。確かに体調がすぐれないとはうかがっていましたが、大病というほどではなかったはず。柏木は昔から女三の宮様を思っていたようだし、もしやふたりの間に何かあったのではないかと、勘ぐってしまうのです。彼は感情に負けるような弱さもありましたから。もしそうであるなら、あるまじき恋に焦がれて自ら身を滅ぼしたとしかいいようがありません。先日、一条御息所から柏木遺愛の笛を譲られましたが、その後、柏木が夢枕に立ち、この笛は子孫に伝えたい、などといいました。このことを父に確かめて、様子を見たいような気もしますが、さて、どうしたものでしょう。

回答                      紫式部・作家
柏木様の死に関しては、おそらくあなたの予想していることが、当たっているでしょう。光源氏様はこれまで、若い公達の中では、柏木様にひときわ目をかけておられたようで、柏木様自身もそれを自覚しておられたとか。なのにとりなしが必要な事態が起こったのはなぜでしょうか。少々のことであれば、光源氏様はきっと大目に見られたことでしょう。
笛にかこつけて真実をお確かめになるのもよろしいかと思います。ただ、そんなことをお聞きしても光源氏様は、本当のことは何もおっしゃらないでしょうね。それよりももっとわかりやすいのは、女三の宮様の産まれた若君をご覧になることでしょう。この子がどなたに似ているか、ご自身の目でお確かめになってはいかがですか。この方を柏木様のご両親にお見せすれば、どれほど喜ばれることか。それがかなわないのが残念ですね。

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相談六十四 出産直後の娘が出家を望んだ理由とは   朱雀院(京都)

紫式部さん、孫の誕生というのは僧形になってもうれしいものです。女三の宮に待望の子どもが生まれたと聞き、早く無事な顔を見たい、その子をこの手に抱きたいと気持ちははやりました。しかし、その後六条院から届く知らせは、娘の体調が悪い、容態が思わしくないといったものばかり。本来であれば、そのような行動は慎むべきですが、もし、このまま会えなくなれば生涯後悔するだろうと思い、人目を忍んで六条院を訪れたのです。

確かに久しぶりに会う女三の宮はやせ衰え、顔色も青白く、いまにもはかなくなりそうな様子です。聞けばこの数カ月、食事もろくに取らないのだとか。娘はこの機会に出家させてほしいと息も絶え絶えに訴えます。このように若い、美しい盛りに出家するなど、何を考えているのでしょう。本人には慎重に考えるよう伝えましたが、もし病が重篤ならば、この機会に出家させた方が仏の功徳もあるだろうと光源氏殿にそのように伝えると、彼は「物の怪のせいかもしれない」などと必死に反対します。どの口でそれを言うのかとも思います。

この人なら安心と思って託したのに、彼の気持は紫の上にあり、娘は思いのほかぞんざいな扱いを受けていると聞いたことがあります。病を口実に出家させてやれば、夫に捨てられた女という後ろ指もさされないでしょう。出家後も光源氏殿は兄の娘として女三の宮を後見してくれるだけの好意はあるはずです。光源氏殿はともかく養生してから、と必死に止めますが、娘の決意は固く翻すことはできませんでした。この夜、娘は私の前で出家いたしました。確かに娘は体も弱り、光源氏殿の冷たさに苦しんでいたかも知れませんが、それだけではないような気がするのです。娘が出家を望んだ本当の理由は何だったのでしょう。

回答                      紫式部・作家
おめでたいはずのご出産の直後の出家。何とも残念なことです。しかし、この出家にはあなたも少しは責任があるのではないでしょうか。光源氏様に紫の上様がいらっしゃることは百も承知の上で、あなたは光源氏様を婿になさいましたね。もちろん光源氏様が引き受けられたからこそ、ご降嫁になったわけですが、このときあなたがもう少しお考えになって、もっと若い方に女三の宮様を縁づけておられれば、このような悲劇は起こらなかったかも知れません。たとえば、柏木様などは心から女三の宮様を欲しておられたのですよ。それが今回の悲劇を生んだとだけ、お話ししておきましょう。
ただ、光源氏様の「物の怪のせいかもしれない」というお言葉はあながち嘘でもありません。後夜の加持の際、六条御息所の物の怪があらわれ、こうなったのは自分のせいだといったとか。おいたわしいことです。この期に及んでは、女三の宮様が健康を取り戻されることだけをお祈りになるのがよいかと存じます。


Kouyounomado

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相談六十三 妻が不倫相手の子どもを出産しました       光源氏(京都)

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紫式部さん、今年の春は何と気の晴れない春なのだろう。柏木は試楽の日以来病の床についてしまって明日をも知れぬ命だそうです。私がつい、ひとこと漏らしたことばを気に病んでいるのかと思うと、やはり気もとがめます。しかし、それも本人の責任なのだから。父大臣は祈祷なども熱心にさせているそうですが、私はもしや、本人にもう生き延びる気力がないのではないかと思っているのです。何ともご両親がお気の毒です。

一方の女三の宮は先日産気づき、一晩中苦しんだ末、男児を出産しました。ああ、せめて家の奥に隠しておける女の子だったらよかったのに。男の子では人目に付く機会も多く、自然に柏木に似ているといった噂も立ってしまうだろう。いや、むしろ世話に手がかかる女の子でなくてよかったのかも知れない。でも、これはあの恐ろしいことの報いかもしれません。それなら自分と藤壺様の罪もすこしは軽くなったのかも知れないと、やや救われたような気もします。
それにつけても、つらいのは周囲の目をごまかすこと。

妻たちはもちろん、帝や中宮からも次々に祝いが届きます。さすがに致仕の大臣(=元頭中将)は柏木の病気が気になるのか、通り一遍の祝いしか届きませんが。本来であれば、四十八歳などという晩年になって産まれた子どもであれば、喜びもひとしおであろうに、どうしても素直に喜ぶことができないのです。周囲はきっといぶかしく思ったでしょう。藤壺様が出産されたとき、あれほど喜ばれた桐壺院はどのようにお考えだったのか、いまさらではありますが、お話を伺いたく思います。女房たちは私がこのように冷淡なうえ、夜もこちらに来ないので、冷たいとか、愛情が薄い、などと非難しています。女三の宮は産後で気が弱っているのでしょう、尼になりたいなどと言い始めました。まさかそのようなことはないと思いますが、さてどうしたものでしょう。

回答                          紫式部・作家
歴史は繰り返す、ですか。さぞ、やりきれない思いでいっぱいのことでしょう。怒りの持って行きどころがありませんね。だけど、お祝いにも気が入らないあなたのご様子をうかがっていると、四十八にもなって、まだ大人になりきれていないようですね。桐壺帝はあなたと藤壺様のことをまったくお気づきでなかったということはないでしょう。それでもそんなことを景色にも出されなかったのは、やはり大人物といえましょう。これですこしはあなたも大人物に近づけるかも知れませんね。
それから、女三の宮様の出家の話は、本気かも知れませんよ。うわべはやさしく、本心は冷たいあなたを見て、ご自分の行く末を真剣にお考えになったのでしょう。邪魔だてはなさらず、ご希望通りにしてあげるのがよろしいでしょう。罪の意識も少しはいやされるのではないでしょうか。

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相談六十二 相手の夫に不倫がばれてしまったようです…       柏木(京都)

紫式部さん、私はどうすればいいんだろう。女三の宮様のところに忍ぶようになって、夢のような日々だった。だけど、こんな秘密はいつか露顕するものだ。私は天に目が付いているような気がして、いつも恐れていたのに、それが現実になってしまったんだ。私が書いた手紙を、光源氏様が見つけられたのだそうだ。夏だったのに、身が凍るような気がしたよ。あの手紙を読まれれば、私たちのことは隠しようもない。光源氏様はどんなに不愉快にお思いだろう。だいたい手紙を見つけられるなんて、女三の宮様はなんてうかつな人なんだ。あの御簾のところで立っていたのだって、いま考えれば軽はずみ以外の何ものでもない。そんな嗜みのない人に恋いこがれるなんて、私も愚かな男だ。女性があまりおっとりしているというのも考えものだ。女房たちにも用心しなければならないのに、それすらなさらなくて、お気の毒にも思う。それにあの人のお腹には私の子がいるんだ。

あれから、私は起きあがるのもつらい毎日だ。だが、光源氏様が朱雀院の五十歳のお祝いを大々的になさるそうで、私はその試楽に呼ばれてしまった。光源氏様にどのような顔をしてお目にかかればよいのかわからなかったので、お断りしていたのだが、父に強いられて出かけたんだ。打ち合わせの時、光源氏様は大層やさしく接してくださるのでうれしくはあったが、むしろ身がすくむようだったよ。試楽当日は各家の子息たちの舞や楽があってすばらしかった。だけど、その夜の宴で光源氏様は私を名指しで「年月は逆さまには進まない。老いは逃れられないよ」などと私をにらんで皮肉をおっしゃった。それほど深酔いしたわけではないのに、その夜から気分が悪く、寝付いてしまった。こんなことで怖じ気づくなんて、自分がこれほど臆病者とは思わなかった。私はどうすればいいのだろう。

回答                      紫式部・作家
なんて覚悟のない不倫だったのでしょう。光源氏様に知られては困るのに、女三の宮様のもとに忍んでいらっしゃったのですか。あなたは女三の宮様の思慮の浅さを非難なさいますが、あなたも同罪ですね。このような事態になるのは目に見えていたはずです。それが露呈したら、この様ですか。
光源氏様は、皮肉こそおっしゃいましたが、あなたに事実を確かめたりされませんでしたね。おそらくご自身では必死に押さえておられるはず。あなたは、何も知らない顔をして、やり過ごしておかれればよいのです。光源氏様の皮肉を正面から受け止めれば、あなた自身が耐えられなくなります。いまは心を強く持って、気力と体力を取り戻すことをお考えなさい。不倫がばれて寝付いてしまうなんて、奥様の女二の宮様がお気の毒です。女三の宮様もつらい立場にいらっしゃいます。あなたが支えてあげなければいけないのですよ。


Hujibakamanichou

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相談六十一 妻の部屋で男の手紙を見つけてしまいました   光源氏(京都)

Akaihasu

紫式部さん、これが因果応報というものなのだろうか。紫の上の体調がすぐれず、ほとんど二条の院に行ったきりになっていたので、女三の宮のことは少しおろそかになっていた。ところが、五月になってから女三の宮の体調が悪いと連絡があったのです。見舞いに訪れたところ、どうやら妊娠らしいという話。このとき、どうも妙な気がしたのです。長年連れ添ったほかの妻たちにもそんな様子は一切ないのに、この人にだけそういうことがあるなんて。もちろん、そんなことは口に出しませんでしたが。

二、三日女三の宮のところにいて、夜になってから二条の院に戻ろうとしたところ、珍しく女三の宮が引き留めるのです。まるで子どものようにかわいらしいので、ついもう一晩泊まってしまいました。翌朝のことでした。落とした扇子を探していたとき、敷物の下にきれいな薄緑の手紙がのぞいていました。何気なく手に取ると男の筆跡。柏木の手紙です。しかも誰が読んでもふたりのこととわかるほど、細々と書き綴っているのです。何と愚かな。女三の宮は、やはり浅はかな女性でした。ということは、お腹の子は…。彼女はまだ寝ていたのでその場では何もいわず、手紙は私が持ち帰りました。それでもまだ信じられず、もしや女房が柏木の筆跡をまねて書いたのではないかとも思いましたが、長年の恋が叶って、物思いを重ねているといった内容はあまりにもはっきりしすぎています。昔の私なら、人目に触れてはいけないと、ことばは簡単にして紛らわしたものですが。いまの人はそこまで用心はしないらしい。このふたりをどうしようか…。

顔に出すべきではないと悩んでいたのですが、恐ろしいことに思い当たりました。父桐壺帝は、もしや藤壺中宮との関係をご存じで、知らぬ顔をされていたのではないだろうか。それを考えると、ふたりを責めることはできないと思うのですが…。

回答                         紫式部・作家
いまごろ女三の宮様は手紙がなくなったことに気づいて、どれほどおののいてらっしゃることでしょうね。柏木様と密通をしてしまったことより、それをあなたに知られて叱られることを心配されているのではないでしょうか。小侍従から柏木様にも知らせが行っているでしょう。お二人とも、罪の意識にさいなまれていることと思います。
もし、桐壺帝があなたと藤壺様のことを知っていて知らぬ顔をされていたのなら、それは本当にあなたも、藤壺様も愛してらっしゃったということですね。だって、自分が知っていることをお二人に知らせなかったのですもの。あなた方は恵まれていたと思いませんか。
若いふたりを責めてはいけませんよ。あなたに知られただけでふたりの苦痛は大きなものです。おおらかに接して差し上げなさい。でも、きっとあなたは意地悪をなさるんでしょうね。

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相談六十 男の人を手引き…、後悔しています           小侍従(京都)

Kouchiki

紫式部様、いまになって自分のしたことに恐れおののいています。私は女三の宮様の乳母子。私の母の姉が柏木様の乳母だったため、私も柏木様とは親しくお話しする間柄です。柏木様は女三の宮様が光源氏様に降嫁される前から思いを寄せておられたそうです。高貴な妻がほしいとの思いから、女二の宮様と結婚されましたが、この人は更衣腹で女三の宮様より少し身分が劣るので、ご不満の様子です。私はこの六条院ではやはり一番光源氏様に愛されているのは紫の上様で、女三の宮様はひとかどの扱いを受けてらっしゃらないといった話をして差し上げました。柏木様はそれを聞いて私にずっと女三の宮様に会わせてほしい、神仏に誓って何もしないからと非常に熱心に要求してこられました。あの方はちょうど紫の上様のお加減が思わしくなく、光源氏様が二条の院に行ったきりになっているこの時期をねらっておられたようです。
さすがの私も根負けして賀茂の齋院の御禊の前夜、女房たちが忙しく女三の宮様の御前に人が少なくなったとき、おそば近くまでご案内したのです。

私は男の人の欲望を甘く見すぎていたのでしょうか。あの方は、誓いなど嘘のようにご無体なふるまいを…。女三の宮様はどんなに怖い思いをなさったでしょうか。光源氏様にお目にかかれないようなことをしてしまったとお嘆きでした。本当にお気の毒なことをしてしまいました。柏木様も「大変な過ちを犯してしまった」と、やってしまったことの恐ろしさに、後悔してらっしゃるようです。もし、光源氏様ににらまれるようなことがあれば、本当に恐ろしいとばかりお考えです。その反面、初めて間近にご覧になった女三の宮様のかわいらしさが忘れられず、たびたび夢のように忍んでこられます。その度に女三の宮様は煩悶を重ねてらっしゃいます。こんな物思いの種をまいてしまった自分のふるまいを悔やんでいます。

回答                      紫式部・作家
本当に馬鹿なことをなさいましたね。軽率以外の何ものでもありません。なぜそんな思慮の浅いことをなさったのですか。いくら柏木様の頼みでも限度があります。大臣家の子息の柏木様のいうことを聞いておけば、あなたの親兄弟の出世に役立つかも知れません。その一方で女三の宮様も、柏木様も奈落の底に落ちるかも知れない危険性をはらんでいることに気づいていますか。光源氏様が二条の院に行ってらっしゃる時期だからよいようなものの、こちらに戻ってこられたとき、お二人の関係を隠し通せますか。ほかの女房たちにこの密通が気取られていませんか。女三の宮様は上手にごまかされるでしょうか。もし、光源氏様に知られたとき、どうなりますか。意に染まぬ関係を持たされた上に、そんなことになっては、女三の宮様がお気の毒です。この始末はあなたがおつけなさいね。

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