カテゴリー「古典文学」の記事

「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学42」 光源氏、女三の宮に見捨てられる(2)

■出家を願いでる女三の宮

さて、生まれた子が男児だったのは光源氏にとってよかったのか、どうなのでしょうか。「こんな子が父親そっくりの顔だちで人前に出るのはいかがなものか。女の子なら大勢に姿を見せることもないので安心だ」と思う一方、「こんな疑いのある子は、手のかからない男の子の方がいい」と悩んでいます。そして「これはあの罪の報いなのか…。それなら来世の罪も少しは軽くなるだろうか」と思うのでした。

だからといって生まれた子を大切にすると言うわけではありません。遅くに身分の高い妻にできた子なら、そばを離れないぐらい大切にするだろうに、ほとんど関心を示さない光源氏に、事情を知らない女三の宮の老い女房らは不満顔で、文句を言ったりしています。女三の宮自身は出産という気味の悪い体験をしたこともあり体調が悪く、光源氏がこの先ますます冷たくなるだろうと考えると、いっそ出家してしまいたくなるのでした。

光源氏は忙しさにかこつけてなかなか女三の宮の元を訪れず、昼間にちょこっと顔を出したりします。その折を伺い、女三の宮は出家を申し出ます。その様子はいつもよりも大人びています。弱々しい姫宮だった女三の宮はいくつもの修羅を乗り越え、出産を経て光源氏の知る女三の宮とは別人になっていたのかもしれません。

光源氏は、「その方がいいかもしれない」と思いながら、まだ美しい盛りの女三の宮の髪を切ってしまうのが気の毒だと「気持を強く持ちなさい」といなし、薬湯を飲ませます。弱々しく儚げな女三の宮はかわいらしく、「どんな過ちがあってもゆるしてしまいそうな姿だ」と光源氏は考えています。詰まるところ、まだまだ美しい女三の宮を失いたくない、という光源氏のエゴがまさったというところです。

女三の宮の父・朱雀院は娘の出産を山の寺で聞きました。出家したとはいえ、カワイイ娘の初めての出産が安産というのに体調が悪いと聞き、会いたくて矢も立てもたまりません。女三の宮も父が恋しくもしかしたらもう二度と会えないかもと泣くので、光源氏はその様子を朱雀院に伝えます。朱雀院はある夜急に女三の宮のところへやってきました。

元帝の急な訪れに光源氏は恐縮至極です。こうして久々の親子対面となりました。そこで女三の宮は「生きていられそうにないのでこのついでに尼にしてください」と訴えます。本人に対しては「それは結構だが、さすがに死ぬとは決まっていない。若い身空で出家すると間違いが起きたりもする」とはいいながら、光源氏には「これが最後の様子なら、出家させてやりたい」と言います。

光源氏は「物の怪などが誑かしてこう仕向けることもあるそうなので、私は聞き入れなかったのです」とオロオロしています。朱雀院は「もし物の怪でも、それは悪いことではないし、こんなに弱っている人の願いを聞き流してはあとで悔やむのでは」と言います。その心には「安心して女三の宮を任せたのに、愛情はいまひとつだった。世間の人の噂なども残念だったが、この機会に出家するのも悪くないだろう。光源氏は後見役としてはまだ役に立つ。桐壺院の遺産の三条の宮に女三の宮を住まわせよう」と意外に冷静に事態を把握し、将来を考えています。

「私がこうしてきたついでに仏縁を結ぶことにしましょう」という朱雀院のことばに、光源氏は周章狼狽、いままでの恨みなどすっかり忘れてこらえきれず女三の宮の几帳に入って思いとどまるよう説得しますが、女三の宮の意思は固く、ついに尼姿になってしまいました。そりゃそうです。あれほどさんざんな扱いをしておきながら、いまごろになって「何で私を見捨てて出家するの」と言われても、見くびるな、という感じでしょう。

こうして女三の宮は出家してしまいました。いままでいつも光源氏の後塵を拝していた朱雀院と光源氏からはペットのような扱いを受けていた女三の宮がタッグを組み、光源氏から自立したのです。結果、光源氏は女三の宮に見限られ、見捨てられた形です。去りゆくものは常に美しい。光源氏は後に残され、戸惑いうろたえるだけでした。光源氏はいつも優位に立っていたはずの、自分の足もとががらがらとくずれるような思いだったのではないでしょうか。彼の驕りが招いた大きな敗北=失敗でした。(この項終わり) 

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学42」 光源氏、女三の宮に見捨てられる(1)

■死にゆくものと産まれいずる命

光源氏ににらまれてからすっかり病みついてしまった柏木は、いっこうに回復する気配がありません。むしろ自分で死を願うほどです。藤原氏の大臣の家に生まれ、少年のころから高い理想を持って生きてきた柏木ですが、実際は官位が低いと女三の宮をめとれず、女三の宮に身分で劣る女二の宮を妻にするなど、なかなか思うような人生ではありませんでした。プライドの高い人が挫折を繰り返してきたのです。

女三の宮と密通して、ひとときは舞い上がるような心地だったかもしれませんが、それも光源氏に露顕し、いまや挫折と敗北感の塊のような男です。こういう人はいったん心が折れてしまうと、立ち直れないのでしょうか。ものも食べず、緩慢な自殺へと向かっているといえます。それでも女三の宮のことだけは忘れられず、少し気分のよいときに手紙を書きます。

その内容も、「私が荼毘に付されて煙になってもあなたへの恋の思いは残るのでしょうか」といった未練がましい手紙。「せめて『あはれ』とだけでもおっしゃってください」と懇願するような内容です。柏木を手引きした小侍従に「もしかしたらこれが最後かもしれません。このお返事だけは」とすすめられても、女三の宮は返事を書こうとしません。光源氏の機嫌が悪いのがやはり恐いのでしょう。それでも硯まで用意されて、ようやく筆を執りました。

これを持って小侍従は柏木を訪ねます。ちょうど柏木の父(もと頭中将)が葛城山の聖を呼んで陀羅尼経を読ませているところでした。柏木自身はそれすら疎ましくて、そっと寝床を出て小侍従と話をします。「光源氏様ににらまれてから魂が出ていったようだ。六條院の中でさまよっていたら、魂を結び止めてよ」などととりとめもなく語らう様子が、まるで抜け殻のようです。小侍従は女三の宮が沈み込んでいる様子を伝えます。その返事には「私もあなたと一緒に煙になって消えてしまいたいほどです。辛い思いで乱れる煙を比べるために。 私も遅れはしません」とあります。

これまで、どんなに言葉を尽くしても柏木への思いを口にすることはなかった女三の宮ですが、最後にこのような手紙を寄せてくれました。柏木はどれほどうれしく思ったでしょうか。もちろん、女三の宮は恋心から書いたのではないでしょう。ただひたすら自分も消え入りたい気持だったからこそ出たことばかもしれません。それでも柏木には切ない恋心を訴える手紙に読めたのではないでしょうか。

その夕暮れ、女三の宮に出産の兆候が現れ、光源氏もあわてて駆けつけました。「もし、何の疑いもなくこの出産を世話できるならどれほどうれしいだろうか…」と思うに付けても残念ですが、とりあえず加持祈祷をさせたり、一通りの世話はします。女三の宮は夜通し苦しんで、日が昇るころ男児を出産しました。光源氏48歳の春のことです。(次回に続く)

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学41」 柏木君、ちょっと来い(2)

■「イケズ」の原点、ここにあり

さて、朱雀院の五十の賀について、女三の宮もいつまでの延期ばかりしていられません。冬も終わりに近い12月の10日過ぎに催すことにしました。旧暦ですからちょうどいまごろの季節です。舞や音楽の稽古が始まり、六條院は大騒ぎ。試楽=リハーサルには紫の上が療養中の二条院から戻り、明石の君の娘の明石の女御も宮中から里下がりしてきます。先ごろ男の子も生まれ、光源氏の子孫も増えつつありました。さらに玉鬘や夕霧もやってきます。

こんな時、音楽の名手の柏木が参加しないのはイベント的にもつまらないし、世間体も気になります。光源氏は柏木を呼ぶように伝えましたが、本人は重病を理由にやってきません。悩み深そうな様子に光源氏も気の毒になり、手紙を送ります。柏木の父もなぜ行かないのかいぶかしがって、六條院に向かうよう促します。柏木は仕方なく起き上がり六條院に参上しました。

久々に会う柏木はやせて面やつれしていますが、それがかえって優美に見えます。元もとイケメンなのでちょっと愁いを帯びてさらに色気を増したような感じでしょうか。光源氏は無沙汰を侘び、朱雀院の五十の賀を行いたいと伝えます。その表情はいつもと変わらずやさしげで、裏もなさそうに見えますが、後ろめたいところのある柏木は気が引けて自分の顔色も変わっているようで、返事すらなかなかできません。かろうじてあいさつを交わしますが、自分への期待を語る光源氏のことばを聞いていると早くこの場を立ち去りたくなります。

この部分だけを見ると「光源氏って、大人じゃん」と思います。柏木も光源氏のことばにはうれしさも感じたようですが、やっぱり心苦しいのがホンネ。早々と光源氏の元を辞し、試楽の演出にあたります。この人は音楽方面の才能は抜群です。楽人や舞人の衣装などもこまごまと演出を加えます。本番さながらの華やかなリハーサルが行われ、髭黒と玉鬘の子どもや、夕霧、蛍兵部卿の息子など小さな子どもをはじめ、一族が舞を舞い、楽を奏で、あっという間に時が過ぎました。

もちろん、宴席にはお酒も出ています。子どもたちの舞を見ている人の中には涙を流す人も。光源氏は「年を取ると、つい酔い泣きしてしまうね。柏木がこっちを見て笑っているよ。恥ずかしいなぁ。でも、それももう少しだ。年月は逆さまに流れないからね。老いからはのがれられないよ」と柏木に目を向けます。

ほかの人にはほんの冗談に聞こえるこのことばですが、真実を知るものだけにわかる意味があります。柏木は光源氏にひたと見つめられたとたん、動悸が激しくなり、頭痛すらしてきました。それでも宴席には盃が回ってきます。口だけ付けてごまかそうとしていましたが、光源氏はそれを見つけてお酒を無理強いします。

女三の宮に対する態度といい、柏木に対することばといい、ネチネチと相手をいびる光源氏の様子は京ことばでいう「イケズ」そのものです。1000年前の物語にイケズの原点が描かれているとはおどろきです。とまれ、柏木は光源氏のイケズに耐えかねて、早々に退出しましたが、めまいはするし、そのまますっかり病みついてしまいました。若い二人の失敗に誘われた光源氏のイケズですが、それが有望な青年の将来すら左右することになるとは、このときはまだだれもわからないのでした。(この項終わり) 

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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Kochou

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学41」 柏木君、ちょっと来い(1)

■おののく二人、傷つく光源氏

さて、唐突ですが、みなさま、不倫が相手の配偶者にばれてしまった、という経験をお持ちの方はいらっしゃるでしょうか。私は幸い?そういう経験がないのですが、そんな時、人はどう振る舞うのでしょう。「ばれたら仕方がない、とことんやってやる」と開き直るのか「こうなったら、奥さんと勝負よ!」と闘志を燃やすのか、あるいは「ばれてしまったどうしよう」とうろたえるのか。

いま、柏木はちょうどそんな状況におかれています。しかも彼は開き直ることもなく、ただひたすらいたたまれず、光源氏を恐れ、まるで病気のように床につく日々が多くなっていました。そんな中、柏木の妻で女三の宮の異母姉の女二の宮が父・朱雀院の五十賀を行うことになりました。五十歳の長寿を祝うお祝いです。

当時は50歳でも長寿です。朱雀院は病気で明日をも知れない、といって光源氏に娘を降嫁させてからもう何年も生きながらえています。一体本当に病気なのかどうか、単に人の気を引きたいだけじゃないか、と思ったりもします。とまれ、最近引きこもりがちな柏木も、気分が優れないながらも何とか気持を奮い起こしてこの行事に参加しました。柏木の父で致仕の太政大臣(昔の頭中将)のバックアップもあり、女二の宮のお祝いは見事なものでした。

しかし、出家しても朱雀院の気にかかるのは一番カワイイ女三の宮のこと。しかも最近光源氏の訪れがほとんどないと漏れ聞いたようで、どういうことかと光源氏を恨めしく思っている様子。紫の上の看病のためだと思っていたようですが、どうやらそうでもないような…。もしやと思い、朱雀院は女三の宮に様子をうかがう手紙を送ることにしました。

その手紙は光源氏もいるときに届きました。さすがに朱雀院には申し訳なく、心苦しく思う光源氏ですが、「あなたが幼稚だから朱雀院も心配するのです。私が朱雀院の期待に添えないようで心外ですね。あなたは私のいうことを浅はかだと思ってるんでしょう。もうオッサンだし、飽きたんじゃないの?でも、朱雀院が私をあなたの後見に選ばれたんだから、あんまりなめたまねはしない方がいいよ。朱雀院にもし、あなたの不祥事が知られて心配をおかけしたら、来世の成仏の妨げになるかもね。その罪は重いんだよ」などと女三の宮に対することばは辛辣です。

このあたりを読んでいると、光源氏、お前はいつからこんなに嫌なやつになったんだ、といいたくなります。いままで、女に嫉妬されることはあっても、真剣に嫉妬することはなかった光源氏。それが自分よりもはるかに年下の若造に、妻を寝取られたのです。おまけに女三の宮は子どものようで、自分を裏切るようなことはないと考えていたのでしょうか。老いの入り口にさしかかった光源氏にとって、女三の宮の不義というのはずいぶんとプライドを傷つけたようです。(次回に続く)

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Kasane

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学40」 子どものような女の魅力(2)

■立ち後れてしまった悔恨

女三の宮の軽率さに失望した光源氏は、過去関わった女性を見る目も変わってしまったような気がします。特に須磨流謫の原因になった朧月夜。若いころ、恋の最中に分かれなければならなかっただけに、彼女への思いは特別です。その思いは京に戻っても変わらず、女三の宮の降嫁後、二人は再び逢瀬を持ちました(7月6日付本コラム参照)。

そのときにも光源氏は、なびきやすい彼女を批判していましたが、最近は女三の宮の事件もあって彼女のことを思い出し、さらに彼女の軽率さを軽蔑するようになっていました。ところが、ある日光源氏の元にニュースが届きます。朧月夜が念願の出家を遂げたというのです。彼女は朱雀院の出家後、ずっと自分も出家する準備をしていたのでしょう。

これを聞いた光源氏の心中はいかばかりだったでしょうか。かつて愛した女性が出家する寂しさ、少し見下していた女性に後れを取ってしまった情けなさ、自分もできない出家を遂げたうらやましさ、出家することなど、一言も伝えてくれなかったことに対する恨めしさ。複雑な思いが光源氏の胸を去来します。

さっそく、光源氏は見舞いの手紙を送ります。「人生の無常はわかっていますが、いままで主家もできず、あなたに後れを取ってしまったのが残念です。あなたが私を見捨てても、きっと毎日の回向のおつとめの時には、私を一番最初に入れてくれるよね」と、ちょっと軽蔑していたことも忘れて、かなりあつかましい手紙を送ります。

これに対し、朧月夜は二人の恋路こそ懐かしく思うものの、もう俗世のことは断ち切った身です。これが最後と考え、心を込めて手紙をしたためます。そこには「回向は一切衆生のためのもの。もちろん、あなたも含まれます」と、見事な筆跡で書かれていました。見事なかわし方です。光源氏としてはちょっとおもしろくありません。

光源氏は紫の上に朧月夜が出家したことを伝えます。光源氏としてはもう、彼女とは切れてしまったことをアピールしたかったのでしょう。そのついでに彼女のことや、朝顔の斎院のことなどを話したりします。ついでに朧月夜に袈裟などを作ってあげるよう依頼します。

この場面、光源氏は何を考えているのかよく分かりません。おそらく家刀自としての紫の上を信頼しているからこその依頼でしょうが、愛人の法服を作らせるなんてあまりに思いやりに欠けた言動だと思うのです。しかも紫の上はかねてから出家を願いながら、聞き入れてもらえない状況が続いています。そんなときにこのような話を聞かされた紫の上。光源氏が朧月夜に立ち後れてしまった…と悔やんでいるように、紫の上もまた、取り残された…という思いがぬぐえなかったのではないでしょうか。

ここでは二人の女性が正反対にも描かれています。しっかりと家政を任せられる紫の上に対し、自分がいなければどうにかなりそうな女三の宮。男性はどちらに魅力を覚えるのでしょうか。女三の宮が世間知らずで幼いのは彼女やその周囲の失敗ですが、オンナとしてはそれもいいのかな、と思ったりします。(この項終わり) 

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Hasu

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学40」 子どものような女の魅力(1)

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■光源氏と柏木の女三の宮評

光源氏が柏木の手紙を読み、柏木と女三の宮の密通が露顕した日から、光源氏は女三の宮の元を訪れません。女三の宮は「私の失敗のせいだわ…。お父様にも知られてしまったらどうしよう」と、おびえるばかりです。

柏木は六條院でそんな事態が起こっているとはまったく知りません。相変わらず、小侍従に「女三の宮様に手引きしてよ」と、しつこく頼んできます。確かに、光源氏の足は途絶えていますが、こんな時に手引きをしたらますます面倒が起こりそうです。思いあまって小侍従は、光源氏に知られてしまったことを、柏木に伝えました。

このときの柏木の様子を、原文では「空に目つきたるやうにおぼえて=空に目が付いているような気がして」、と表現しています。天は何もかもお見通しなのか、という感じでしょうか。ましてあの手紙。女三の宮への思いや二人のことがあれもこれも事細かに書かれています。あれを光源氏に読まれてしまったのですから、もう顔向けはできません。柏木は自分の犯した罪の大きさに、身も凍り付いたようで、気が気ではありません。気分すら悪くなって、内裏にも参内せず、お仕事もサボる始末。

実のところ、密通そのものはたいした罪ではありません。それよりも光源氏に知られてしまったことがショックで、恨めしいのです。そこでふと、女三の宮のたたずまいに思いがおよびます。「そういえば、奥ゆかしい雰囲気はなかったんだよね、彼女。蹴鞠の時、あんな風に姿が見えたっていうのも、ホントならあり得ないよな。あの身分にしては軽率な人だったんだ」と、女三の宮の欠点をあげつらいます。でも、実のところ、女三の宮への思いをさまそうとして欠点を探しているのかもしれません。あるいは自分の失敗を、彼女への批判にすり替えようというのでしょうか。

一方、光源氏。一時は女三の宮を見捨てようと思っていましたが、不思議に彼女への思いがわき上がってきます。六條院を訪れて女三の宮の姿を見ると、胸苦しく思うのでした。ほかの男に寝取られてしまった、嫉妬なのかもしれません。彼女の立場上疎略に扱うことはできないので、祈祷などはさせ、丁重に世話をします。でも、さすがに同じ寝所に休んでもその気にはならず、光源氏は一人煩悶しています。その様子を見て、萎縮している女三の宮を紫式部は「心幼し=ガキのようだ」と評しています。

光源氏も彼女のことを「こんな性格だからこんな事件が起こったんだ。おっとりしているのがいいっていっても、こんなに心配になるほど世間知らずなのは頼りなさ過ぎだ」とばっさりと断じます。柏木も光源氏も女三の宮の子どもっぽさにうんざりしているように見えます。しかし、二人とも彼女を見捨てることができません。あまりにも子どもっぽい女三の宮は、男性の保護本能をかき立てるのかもしれません。意外な彼女の一面が見えた気がします。(次回に続く)

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学39」 隠したはずの手紙が… (2)

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■なんだ?この手紙は
一方、六条院の女三宮。あの、柏木との思いもよらぬ密通以来、この事実を光源氏に知られるのではないかと、気が気ではありません。柏木は時折、夢のように彼女を訪れ、思いの丈を語らって帰るのでした。柏木は当代屈指のイケメンです。家柄もよく、あこがれる女性も多かったでしょう。しかし、少女時代から光源氏のような男になじんだ女三宮の目には、どうということもありませんでした。ただただ疎ましく、そんな男と心ならずも関係を結んでしまったことが悲しく、光源氏に知られることが恐ろしいと思っていました。

あの悪夢の夜から、一月以上がたったでしょうか。女三宮の体調に変化が見られました。顔色が悪くなり、食欲もありません。どうやら妊娠した様子。光源氏もそう聞かされてようやく重い腰を上げ、女三宮のもとを訪れることにしました。

一方、女三宮。あのことばかりが気になり、心がとがめて光源氏に会うのも気が引けます。光源氏は光源氏で、女三宮が妊娠したことについて、長年連れ添った妻たちにもそんなことはなかったのに不思議な。と思っています。ただ、つわりに苦しむ女三宮の様子が痛々しく、やはり気にはなるのでした。

でも、光源氏の心は紫の上にあります。女三宮のもとにいる間も、間を置かず紫の上に手紙を送っていました。一方女三宮にも手紙が届けられます。見れば柏木から。大げさなラブレターです。女三宮はそんなもの、「気分が悪くなるから」と読む気もしませんが、柏木を手引きした侍従はこっそり開いて読ませます。そこへ光源氏が入ってきたのでした。あっ!と思った女三宮は、胸がつぶれそう。慌てて敷物の下に手紙を隠しました。

夜になって光源氏は二条院に戻ろうとします。しかし、何を思ったのか女三宮は光源氏を引き留めます。その様子がまるで子どものようでかわいいので、光源氏もついほだされてもう一晩泊まることにしたのでした。翌朝、涼しいうちに帰ろうと早く起きた光源氏は、夕べいた御座所のあたりで扇子を探していました。すると敷物が少し乱れているところが。なにやら緑色の薄紙が押し込まれています。手に取ってみれば一通の手紙。柏木の字です。読むともなしに眺めていると、女三宮とのことが細々と綴ってあります。

「こんなものをこんなところに散らかしておいて。なんて幼い」。まだすやすや眠る女三宮を見下すような気分になります。光源氏はその手紙を手にしたまま二条院に戻りました。ちらりとその様子を目にした侍従は「あれはもしや」と気が気ではありません。女三宮に確認しましたが、手紙が見つかるはずもなく、「まあ、大変!」侍従は女三宮をとがめ、女三宮はおろおろと泣くばかりです。

光源氏は人のいないところでこの手紙をつらつら読み直します。最初は信じられませんでした。「女房が柏木の字をまねて書いた?」「いや、この書き方は間違いない」「こんなに誰のことかわかりやすく書かなくても」「私なら、万一手紙を落としてもごまかせるように書いた」とあれこれ思い、柏木への軽蔑がわいてくるのでした。

「ああ、思いもよらぬ懐妊も、このせいだったのだ。それにしても女三宮をどう扱うべきか。自分は柏木ごときと比べられるような男ではないだろう」などとあれこれ煩悶します。そしてふと思い当たったのでした。「父は、父帝はやはり私の犯した罪をご存じでいながら、知らない顔をしていたのだろうか。なんと恐ろしい自分の罪か」。父の目をごまかしおおせたと思った藤壺との密通。もしや、桐壺帝はそれを知っていながら知らない顔を通してくれたのではないか。もし、そうだとしたら桐壺帝は非常に大きな人物といえますね。

「私には二人の恋路を責めることはできない…」光源氏は複雑な思いにさいなまれるのでした。(この項終わり) 

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学39」 隠したはずの手紙が… (1)

■紫の上が息を引き取った?
あの女楽の日以来、紫の上は病みついたまま、いっこうに回復の気配を見せません。光源氏も心を込めて看病しますが、はかばかしくありません。本当のところなら、紫の上一人に心を注ぎたいところですが、彼女よりも身分の高い女三宮についてはないがしろにするわけにもいかず、時折は、女三宮のところにも足を運ぶことがありました。

しかし、そうやってたまに足を運んでも、やはり心にかかっているのは紫の上のこと。いまはどうしているのか、苦しんではいないか、ふとした折に彼女のことが気になって仕方ありません。一度行くとすぐに帰るわけにもいかず、紫の上を気にかけながら、女三宮のもとで過ごしていました。

そこへやってきたのは二条院からの使い。「もしや」の悪い予感は当たりました。「紫の上が息を引き取られました」という知らせ。光源氏は目の前が真っ暗になったような気持ちです。急いで二条院に戻ると、女房たちも取り乱して右往左往しています。快癒祈願の御修法をしていた僧たちも祭壇を壊し、まばらになっています。まさに人が死んだという状況です。

光源氏は、もう一度目と目を合わせたい、臨終に会えなかったのが悲しいと嘆き、物の怪の仕業ではないかと祈祷を続けさせます。すると、なんということでしょう。紫の上が病みついていた間、いっこうに姿を見せなかった物の怪が依りましの童にのりうつり、大きな声を上げます。同時に、紫の上の顔に血の気がよみがえり、息を吹き返したのです。

物の怪は「六条院お一人に伝えたいことがあります」と人払いを告げます。「命もなくなりそうに嘆いている姿を見ると、昔の恋心が残っているからこそ、このような浅ましい姿になりながらもこうして現れたのです、本当は姿など見せとうはなかった」などと告げます。髪を乱しながら嘆くその姿は、あのときの。

そう、この物の怪はあの六条御息所の死霊だったのです。光源氏は「よくない狐などが死者の名誉を汚すこともある。はっきり名乗り、誰も知らないようなことを言えば信じる」と、毅然と対応しようとします。しかしその口から出てくるのは確かに光源氏と六条御息所しか知らないことばかり。ひどい人、と嘆きながらも恥じ入る姿も昔の六条御息所そのままです。

聞けば、夫婦の語らいの中で六条御息所を「扱いにくい、性格の悪い女」といったのが恨めしかったのだとか。死んだ後もこのように恨みを抱く六条御息所の姿には身震いを感じます。ようやく物の怪を封じ込め、紫の上をほかの場所に移して、人心地を得たのでした。

息を吹き返したとはいえ、紫の上はまだ病の床に伏したままです。光源氏はますます彼女のそばを去らず、看病に心を砕き、女三宮のいる六条院には、足を向けることも忘れていました。(次回に続く)

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学38」 悲劇の幕は上がった(2)

■女主人の寝室に男を引き入れる女房

柏木は中納言に昇進しました。帝の信任も厚く、将来を嘱望された人です。女三宮の姉の女二宮を妻にしていましたが、女三宮よりも出自の低い女二宮では飽きたらず、相変わらず心の底では女三宮を思い続け、女三宮の女房の小侍従に何とか便宜を取りはからってくれるよう、せっついていました。この小侍従は柏木の乳母の縁続きだったため、柏木は昔から女三宮の様子を聞いていたのでした。

柏木にとって、紫の上も光源氏も六条院から離れているいまは、人目も少なく、大きなチャンスです。なんとか物越しに話ぐらいでも…と、とても低姿勢で小侍従に頼みます。柏木にとって女三宮との唯一の絆はこの小侍従です。ですから低姿勢にならざるを得ません。でも、柏木の熱意というか、執着が小侍従を動かし、なんとかやってみましょう、ということになりました。

それは賀茂の祭りの御禊が間近に迫った4月10日過ぎのこと。もちろん、光源氏は紫の上のところに行ったきりです。祭りの前日とあって、女房たちの一部は齋院のお手伝いに出かけなければいけません。また、ほかの女房たちも準備に忙しく、ある女房は恋人に呼び出されて留守。女三宮のそばは小侍従だけという(柏木にとっては)千載一遇の機会がやってきました。

小侍従はこれがチャンスと、柏木を女三宮の寝所に導き入れました。こんなに近くまで寄らせなくても、御簾越しに声だけ聞かせればいいのに、小侍従は出過ぎたまねをしたのかもしれないし、男性の性を甘く見ていたのかもしれません。それまで眠っていた女三宮はふと、男性の気配を感じて目を覚まします。光源氏かな、と思いました。でも、それにしては様子が違います。しかも自分をベッドの下に抱き下ろすではありませんか!

さらに、ずっと昔からお慕いしていました、とか、あはれとだけでもおっしゃって、とか、訳のわからないことをあれこれとかき口説きます。女三宮は「ああ、以前から手紙を寄せていたあの人か」と思い当たりますが、それでも知らない男に抱き寄せられて、恐怖はつきません。汗もしとどに流れ落ちます。

一方柏木。初めて間近にみる女三宮は、姫宮の威厳や重々しさよりも、ひたすら可憐で、かわいらしく、上品で柔らかな雰囲気が勝っています。その姿に、押さえていた理性も吹き飛び、このまま女三宮を連れて去ってしまいたいと思うほどでした。

どれほど時間がたったのでしょうか。柏木は短いまどろみの中で夢を見ました。あの子猫を女三宮に差し上げた夢。どうして差し上げてしまったのか、と思っているうちに目が覚めました。横では女三宮が呆然としています。そのものずばりの表現はありませんが、この部分の描写から、柏木が無理矢理に女三宮と関係を持ったことがわかります。そこで女三宮は初めて、あの猫が御簾を巻き上げ、柏木に姿を見られたことを聞かされます。「こんなことになって光源氏様にどんな顔でお目にかかればいいのか…」目の前の柏木のことよりも、光源氏に知られることの方が、女三宮には恐ろしいのでした。

光源氏の運命の凋落を示すような若菜の巻。紫の上の病気は、光源氏のエゴが招いたものでしょう。出家を許されず、不安定な地位の紫の上。しかも女三宮と同じ席で女楽に臨まなければなりません。積もり積もったストレスが、彼女をむしばんだ結果といえるのではないでしょうか。

そして女三宮と柏木の過ち。深い考えもなく男を女主人の寝室に導く小侍従。人が少ないのに、恋人の呼び出しに応じて出て行ってしまう女房。女三宮の女房たちは、主人を守るという意識が欠けていたとしかおもません。その結果招かれた二人の過ち。物語に広がった大きな波紋は、どのような悲劇を招くのでしょうか。(この項終わり) 

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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Michoudai

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学38」 悲劇の幕は上がった(1)

Cat

■六條院の女性が集まって…
前回、柏木が女三宮の姿を偶然目にしてから、柏木の心は女三宮のことでいっぱいです。寝ても覚めても思うのは彼女のことばかり。挙げ句の果てに、女三宮の兄の東宮にうまく取り入って例の子猫を手に入れたりしました。柏木は子猫を懐に抱いて寝たり、まるで恋人のように扱うところが描写されています。

その後、物語では髭黒右大将の娘が蛍兵部卿宮の結婚、光源氏の実子の冷泉帝は譲位し、東宮が帝になりました。光源氏の娘の明石の女御は子どもも多く、このままいけば后になるでしょう。帝の妹の女三宮は内親王としての位も上がり、経済的にも安定しています。そんな中、光源氏の愛はやはり紫の上に注がれていましたが、紫の上の心にはずっと以前から、出家の願いが芽生えていました。しかし、その願いを光源氏に訴え出ても聞き入れてもらえません。出家すれば男女関係を絶たなければいけません。光源氏にはそれが耐えられなかったのです。つまり、光源氏のエゴだけで、紫の上は出家の道を閉ざされていました。

女三宮の父・朱雀院は50歳を迎えます。当時50歳といえば長寿の部類。女三宮が光源氏に降嫁したころ、体調が悪くて明日をも知れぬかもしれないなど、なんだかんだいいながらも、相変わらず朱雀院は健在です。もちろん、これはお祝いしなければということで、光源氏は女三宮主催の「五十の賀」のプランを練り始めました。

そこで思いついたのが「女楽」。六条院の女たちの合奏です。明石の君は琵琶の名手。紫の上は和琴、明石女御は箏の琴、そして女三宮は琴の琴(きんのこと)。この琴の琴は、光源氏手ずから指導したもの。そのため、最近は紫の上よりも女三宮のところに泊まることが多くなっていました。

朱雀院の五十の賀は2月10日過ぎの予定です。その前に試楽を行うことにしました。つまりは本番さながらのリハーサル。息子の夕霧に加え、その子どもたちや髭黒の子どもたちなど縁続きの子どもたちも呼び、とても賑やかです。おつきの女童たちも季節にあった美しい衣装を着て、彩り豊か。このあたりは源氏物語ならではの華やかさで、読み応えたっぷりです。

主役はいずれ劣らぬ4人の女性たち。女三宮は衣装だけがあるようで、小さくかわいらしい風情で、たおやかな青柳に例えられます。。明石女御はそれにもう少しつややかさや奥ゆかしさが加わり、いってみれば藤の花。匂い立つような美しさの紫の上は桜。明石の君は身分は低いものの、優雅で、花橘に例えられています。

無事、試楽が終わり、光源氏は紫の上と戻り、あれこれと語らいます。その中で再び紫の上は出家を願い出ますが、やはり光源氏は聞き入れません。その翌朝、紫の上は突如発病しました。胸が苦しくなり、熱が出ますが、光源氏に知らせないよう苦しみをこらえます。ところが、たまたま連絡のあった明石女御にそれを知らせたため、明石女御から光源氏に連絡が届きました。紫の上はそれから病みついてしまい、朱雀院の五十の賀も延期になってしまいました。光源氏は試しに場所を変えてはどうかと、紫の上を彼女が育った二条院に移して、転地療養することにしました。(次回に続く)

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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