大阪近代名建築シリーズ2 住友銀行本店(現三井住友銀行)
…高架の向こうに見える石の塊も、そうした銀行のひとつだということは知っていた。ガラスが見えるのは最上階とその下の階だけで、窓の大半に内側から目張りがしてある。高架に面した西側に巨大なファサードがあるが、それは見えず、ファサードの上に、金色に浮かんでいるはずの文字も見えなかった。(高村薫「黄金を抱いて翔べ」)
旧住友銀行本店は、高村薫の小説「黄金を抱いて翔べ」のモデルになった銀行だ。作中では「住田銀行」として登場し、主人公らが地下金庫から金塊を強奪する。淀屋橋近くにあり、隣に信託銀行のビルがあると述べられている点、名前が酷似している点から、住田銀行のモデルであることは一目瞭然だ。
本ものの住友銀行はいま、三井住友銀行になっているが、その威容はかつてと変わらない。黄色い竜山石の外観はちょっとのっぺりしているけれど、玄関のイオニア風の柱がどっしりした風格をかもし出す。いや、風格というには威圧的な雰囲気漂う建物だ。かつて、銀行がまだ権威を持っていた時代を象徴しているといえる。設計は住友工作部・長谷部栄吉。施工は大林組。大正11年に着工し、昭和5年に完成した。当時の財閥の力を示す建造物でもある。
高村薫はOL時代、このビルのそばを歩きながら「このビルに強盗に入ったらスカッとするだろうな」と思っていたそうだ。それが「黄金を抱いて翔べ」執筆のきっかけになったとか。本当にここに黄金が眠っているかどうかは知らない。だけど、そんなモノも貯め込んでそうな、堂々たるビルではある。