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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学42」 光源氏、女三の宮に見捨てられる(1)

■死にゆくものと産まれいずる命

光源氏ににらまれてからすっかり病みついてしまった柏木は、いっこうに回復する気配がありません。むしろ自分で死を願うほどです。藤原氏の大臣の家に生まれ、少年のころから高い理想を持って生きてきた柏木ですが、実際は官位が低いと女三の宮をめとれず、女三の宮に身分で劣る女二の宮を妻にするなど、なかなか思うような人生ではありませんでした。プライドの高い人が挫折を繰り返してきたのです。

女三の宮と密通して、ひとときは舞い上がるような心地だったかもしれませんが、それも光源氏に露顕し、いまや挫折と敗北感の塊のような男です。こういう人はいったん心が折れてしまうと、立ち直れないのでしょうか。ものも食べず、緩慢な自殺へと向かっているといえます。それでも女三の宮のことだけは忘れられず、少し気分のよいときに手紙を書きます。

その内容も、「私が荼毘に付されて煙になってもあなたへの恋の思いは残るのでしょうか」といった未練がましい手紙。「せめて『あはれ』とだけでもおっしゃってください」と懇願するような内容です。柏木を手引きした小侍従に「もしかしたらこれが最後かもしれません。このお返事だけは」とすすめられても、女三の宮は返事を書こうとしません。光源氏の機嫌が悪いのがやはり恐いのでしょう。それでも硯まで用意されて、ようやく筆を執りました。

これを持って小侍従は柏木を訪ねます。ちょうど柏木の父(もと頭中将)が葛城山の聖を呼んで陀羅尼経を読ませているところでした。柏木自身はそれすら疎ましくて、そっと寝床を出て小侍従と話をします。「光源氏様ににらまれてから魂が出ていったようだ。六條院の中でさまよっていたら、魂を結び止めてよ」などととりとめもなく語らう様子が、まるで抜け殻のようです。小侍従は女三の宮が沈み込んでいる様子を伝えます。その返事には「私もあなたと一緒に煙になって消えてしまいたいほどです。辛い思いで乱れる煙を比べるために。 私も遅れはしません」とあります。

これまで、どんなに言葉を尽くしても柏木への思いを口にすることはなかった女三の宮ですが、最後にこのような手紙を寄せてくれました。柏木はどれほどうれしく思ったでしょうか。もちろん、女三の宮は恋心から書いたのではないでしょう。ただひたすら自分も消え入りたい気持だったからこそ出たことばかもしれません。それでも柏木には切ない恋心を訴える手紙に読めたのではないでしょうか。

その夕暮れ、女三の宮に出産の兆候が現れ、光源氏もあわてて駆けつけました。「もし、何の疑いもなくこの出産を世話できるならどれほどうれしいだろうか…」と思うに付けても残念ですが、とりあえず加持祈祷をさせたり、一通りの世話はします。女三の宮は夜通し苦しんで、日が昇るころ男児を出産しました。光源氏48歳の春のことです。(次回に続く)

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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