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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学41」 柏木君、ちょっと来い(2)

■「イケズ」の原点、ここにあり

さて、朱雀院の五十の賀について、女三の宮もいつまでの延期ばかりしていられません。冬も終わりに近い12月の10日過ぎに催すことにしました。旧暦ですからちょうどいまごろの季節です。舞や音楽の稽古が始まり、六條院は大騒ぎ。試楽=リハーサルには紫の上が療養中の二条院から戻り、明石の君の娘の明石の女御も宮中から里下がりしてきます。先ごろ男の子も生まれ、光源氏の子孫も増えつつありました。さらに玉鬘や夕霧もやってきます。

こんな時、音楽の名手の柏木が参加しないのはイベント的にもつまらないし、世間体も気になります。光源氏は柏木を呼ぶように伝えましたが、本人は重病を理由にやってきません。悩み深そうな様子に光源氏も気の毒になり、手紙を送ります。柏木の父もなぜ行かないのかいぶかしがって、六條院に向かうよう促します。柏木は仕方なく起き上がり六條院に参上しました。

久々に会う柏木はやせて面やつれしていますが、それがかえって優美に見えます。元もとイケメンなのでちょっと愁いを帯びてさらに色気を増したような感じでしょうか。光源氏は無沙汰を侘び、朱雀院の五十の賀を行いたいと伝えます。その表情はいつもと変わらずやさしげで、裏もなさそうに見えますが、後ろめたいところのある柏木は気が引けて自分の顔色も変わっているようで、返事すらなかなかできません。かろうじてあいさつを交わしますが、自分への期待を語る光源氏のことばを聞いていると早くこの場を立ち去りたくなります。

この部分だけを見ると「光源氏って、大人じゃん」と思います。柏木も光源氏のことばにはうれしさも感じたようですが、やっぱり心苦しいのがホンネ。早々と光源氏の元を辞し、試楽の演出にあたります。この人は音楽方面の才能は抜群です。楽人や舞人の衣装などもこまごまと演出を加えます。本番さながらの華やかなリハーサルが行われ、髭黒と玉鬘の子どもや、夕霧、蛍兵部卿の息子など小さな子どもをはじめ、一族が舞を舞い、楽を奏で、あっという間に時が過ぎました。

もちろん、宴席にはお酒も出ています。子どもたちの舞を見ている人の中には涙を流す人も。光源氏は「年を取ると、つい酔い泣きしてしまうね。柏木がこっちを見て笑っているよ。恥ずかしいなぁ。でも、それももう少しだ。年月は逆さまに流れないからね。老いからはのがれられないよ」と柏木に目を向けます。

ほかの人にはほんの冗談に聞こえるこのことばですが、真実を知るものだけにわかる意味があります。柏木は光源氏にひたと見つめられたとたん、動悸が激しくなり、頭痛すらしてきました。それでも宴席には盃が回ってきます。口だけ付けてごまかそうとしていましたが、光源氏はそれを見つけてお酒を無理強いします。

女三の宮に対する態度といい、柏木に対することばといい、ネチネチと相手をいびる光源氏の様子は京ことばでいう「イケズ」そのものです。1000年前の物語にイケズの原点が描かれているとはおどろきです。とまれ、柏木は光源氏のイケズに耐えかねて、早々に退出しましたが、めまいはするし、そのまますっかり病みついてしまいました。若い二人の失敗に誘われた光源氏のイケズですが、それが有望な青年の将来すら左右することになるとは、このときはまだだれもわからないのでした。(この項終わり) 

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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