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2010年6月

「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学41」 柏木君、ちょっと来い(1)

■おののく二人、傷つく光源氏

さて、唐突ですが、みなさま、不倫が相手の配偶者にばれてしまった、という経験をお持ちの方はいらっしゃるでしょうか。私は幸い?そういう経験がないのですが、そんな時、人はどう振る舞うのでしょう。「ばれたら仕方がない、とことんやってやる」と開き直るのか「こうなったら、奥さんと勝負よ!」と闘志を燃やすのか、あるいは「ばれてしまったどうしよう」とうろたえるのか。

いま、柏木はちょうどそんな状況におかれています。しかも彼は開き直ることもなく、ただひたすらいたたまれず、光源氏を恐れ、まるで病気のように床につく日々が多くなっていました。そんな中、柏木の妻で女三の宮の異母姉の女二の宮が父・朱雀院の五十賀を行うことになりました。五十歳の長寿を祝うお祝いです。

当時は50歳でも長寿です。朱雀院は病気で明日をも知れない、といって光源氏に娘を降嫁させてからもう何年も生きながらえています。一体本当に病気なのかどうか、単に人の気を引きたいだけじゃないか、と思ったりもします。とまれ、最近引きこもりがちな柏木も、気分が優れないながらも何とか気持を奮い起こしてこの行事に参加しました。柏木の父で致仕の太政大臣(昔の頭中将)のバックアップもあり、女二の宮のお祝いは見事なものでした。

しかし、出家しても朱雀院の気にかかるのは一番カワイイ女三の宮のこと。しかも最近光源氏の訪れがほとんどないと漏れ聞いたようで、どういうことかと光源氏を恨めしく思っている様子。紫の上の看病のためだと思っていたようですが、どうやらそうでもないような…。もしやと思い、朱雀院は女三の宮に様子をうかがう手紙を送ることにしました。

その手紙は光源氏もいるときに届きました。さすがに朱雀院には申し訳なく、心苦しく思う光源氏ですが、「あなたが幼稚だから朱雀院も心配するのです。私が朱雀院の期待に添えないようで心外ですね。あなたは私のいうことを浅はかだと思ってるんでしょう。もうオッサンだし、飽きたんじゃないの?でも、朱雀院が私をあなたの後見に選ばれたんだから、あんまりなめたまねはしない方がいいよ。朱雀院にもし、あなたの不祥事が知られて心配をおかけしたら、来世の成仏の妨げになるかもね。その罪は重いんだよ」などと女三の宮に対することばは辛辣です。

このあたりを読んでいると、光源氏、お前はいつからこんなに嫌なやつになったんだ、といいたくなります。いままで、女に嫉妬されることはあっても、真剣に嫉妬することはなかった光源氏。それが自分よりもはるかに年下の若造に、妻を寝取られたのです。おまけに女三の宮は子どものようで、自分を裏切るようなことはないと考えていたのでしょうか。老いの入り口にさしかかった光源氏にとって、女三の宮の不義というのはずいぶんとプライドを傷つけたようです。(次回に続く)

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学40」 子どものような女の魅力(2)

■立ち後れてしまった悔恨

女三の宮の軽率さに失望した光源氏は、過去関わった女性を見る目も変わってしまったような気がします。特に須磨流謫の原因になった朧月夜。若いころ、恋の最中に分かれなければならなかっただけに、彼女への思いは特別です。その思いは京に戻っても変わらず、女三の宮の降嫁後、二人は再び逢瀬を持ちました(7月6日付本コラム参照)。

そのときにも光源氏は、なびきやすい彼女を批判していましたが、最近は女三の宮の事件もあって彼女のことを思い出し、さらに彼女の軽率さを軽蔑するようになっていました。ところが、ある日光源氏の元にニュースが届きます。朧月夜が念願の出家を遂げたというのです。彼女は朱雀院の出家後、ずっと自分も出家する準備をしていたのでしょう。

これを聞いた光源氏の心中はいかばかりだったでしょうか。かつて愛した女性が出家する寂しさ、少し見下していた女性に後れを取ってしまった情けなさ、自分もできない出家を遂げたうらやましさ、出家することなど、一言も伝えてくれなかったことに対する恨めしさ。複雑な思いが光源氏の胸を去来します。

さっそく、光源氏は見舞いの手紙を送ります。「人生の無常はわかっていますが、いままで主家もできず、あなたに後れを取ってしまったのが残念です。あなたが私を見捨てても、きっと毎日の回向のおつとめの時には、私を一番最初に入れてくれるよね」と、ちょっと軽蔑していたことも忘れて、かなりあつかましい手紙を送ります。

これに対し、朧月夜は二人の恋路こそ懐かしく思うものの、もう俗世のことは断ち切った身です。これが最後と考え、心を込めて手紙をしたためます。そこには「回向は一切衆生のためのもの。もちろん、あなたも含まれます」と、見事な筆跡で書かれていました。見事なかわし方です。光源氏としてはちょっとおもしろくありません。

光源氏は紫の上に朧月夜が出家したことを伝えます。光源氏としてはもう、彼女とは切れてしまったことをアピールしたかったのでしょう。そのついでに彼女のことや、朝顔の斎院のことなどを話したりします。ついでに朧月夜に袈裟などを作ってあげるよう依頼します。

この場面、光源氏は何を考えているのかよく分かりません。おそらく家刀自としての紫の上を信頼しているからこその依頼でしょうが、愛人の法服を作らせるなんてあまりに思いやりに欠けた言動だと思うのです。しかも紫の上はかねてから出家を願いながら、聞き入れてもらえない状況が続いています。そんなときにこのような話を聞かされた紫の上。光源氏が朧月夜に立ち後れてしまった…と悔やんでいるように、紫の上もまた、取り残された…という思いがぬぐえなかったのではないでしょうか。

ここでは二人の女性が正反対にも描かれています。しっかりと家政を任せられる紫の上に対し、自分がいなければどうにかなりそうな女三の宮。男性はどちらに魅力を覚えるのでしょうか。女三の宮が世間知らずで幼いのは彼女やその周囲の失敗ですが、オンナとしてはそれもいいのかな、と思ったりします。(この項終わり) 

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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Hasu

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学40」 子どものような女の魅力(1)

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■光源氏と柏木の女三の宮評

光源氏が柏木の手紙を読み、柏木と女三の宮の密通が露顕した日から、光源氏は女三の宮の元を訪れません。女三の宮は「私の失敗のせいだわ…。お父様にも知られてしまったらどうしよう」と、おびえるばかりです。

柏木は六條院でそんな事態が起こっているとはまったく知りません。相変わらず、小侍従に「女三の宮様に手引きしてよ」と、しつこく頼んできます。確かに、光源氏の足は途絶えていますが、こんな時に手引きをしたらますます面倒が起こりそうです。思いあまって小侍従は、光源氏に知られてしまったことを、柏木に伝えました。

このときの柏木の様子を、原文では「空に目つきたるやうにおぼえて=空に目が付いているような気がして」、と表現しています。天は何もかもお見通しなのか、という感じでしょうか。ましてあの手紙。女三の宮への思いや二人のことがあれもこれも事細かに書かれています。あれを光源氏に読まれてしまったのですから、もう顔向けはできません。柏木は自分の犯した罪の大きさに、身も凍り付いたようで、気が気ではありません。気分すら悪くなって、内裏にも参内せず、お仕事もサボる始末。

実のところ、密通そのものはたいした罪ではありません。それよりも光源氏に知られてしまったことがショックで、恨めしいのです。そこでふと、女三の宮のたたずまいに思いがおよびます。「そういえば、奥ゆかしい雰囲気はなかったんだよね、彼女。蹴鞠の時、あんな風に姿が見えたっていうのも、ホントならあり得ないよな。あの身分にしては軽率な人だったんだ」と、女三の宮の欠点をあげつらいます。でも、実のところ、女三の宮への思いをさまそうとして欠点を探しているのかもしれません。あるいは自分の失敗を、彼女への批判にすり替えようというのでしょうか。

一方、光源氏。一時は女三の宮を見捨てようと思っていましたが、不思議に彼女への思いがわき上がってきます。六條院を訪れて女三の宮の姿を見ると、胸苦しく思うのでした。ほかの男に寝取られてしまった、嫉妬なのかもしれません。彼女の立場上疎略に扱うことはできないので、祈祷などはさせ、丁重に世話をします。でも、さすがに同じ寝所に休んでもその気にはならず、光源氏は一人煩悶しています。その様子を見て、萎縮している女三の宮を紫式部は「心幼し=ガキのようだ」と評しています。

光源氏も彼女のことを「こんな性格だからこんな事件が起こったんだ。おっとりしているのがいいっていっても、こんなに心配になるほど世間知らずなのは頼りなさ過ぎだ」とばっさりと断じます。柏木も光源氏も女三の宮の子どもっぽさにうんざりしているように見えます。しかし、二人とも彼女を見捨てることができません。あまりにも子どもっぽい女三の宮は、男性の保護本能をかき立てるのかもしれません。意外な彼女の一面が見えた気がします。(次回に続く)

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学39」 隠したはずの手紙が… (2)

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■なんだ?この手紙は
一方、六条院の女三宮。あの、柏木との思いもよらぬ密通以来、この事実を光源氏に知られるのではないかと、気が気ではありません。柏木は時折、夢のように彼女を訪れ、思いの丈を語らって帰るのでした。柏木は当代屈指のイケメンです。家柄もよく、あこがれる女性も多かったでしょう。しかし、少女時代から光源氏のような男になじんだ女三宮の目には、どうということもありませんでした。ただただ疎ましく、そんな男と心ならずも関係を結んでしまったことが悲しく、光源氏に知られることが恐ろしいと思っていました。

あの悪夢の夜から、一月以上がたったでしょうか。女三宮の体調に変化が見られました。顔色が悪くなり、食欲もありません。どうやら妊娠した様子。光源氏もそう聞かされてようやく重い腰を上げ、女三宮のもとを訪れることにしました。

一方、女三宮。あのことばかりが気になり、心がとがめて光源氏に会うのも気が引けます。光源氏は光源氏で、女三宮が妊娠したことについて、長年連れ添った妻たちにもそんなことはなかったのに不思議な。と思っています。ただ、つわりに苦しむ女三宮の様子が痛々しく、やはり気にはなるのでした。

でも、光源氏の心は紫の上にあります。女三宮のもとにいる間も、間を置かず紫の上に手紙を送っていました。一方女三宮にも手紙が届けられます。見れば柏木から。大げさなラブレターです。女三宮はそんなもの、「気分が悪くなるから」と読む気もしませんが、柏木を手引きした侍従はこっそり開いて読ませます。そこへ光源氏が入ってきたのでした。あっ!と思った女三宮は、胸がつぶれそう。慌てて敷物の下に手紙を隠しました。

夜になって光源氏は二条院に戻ろうとします。しかし、何を思ったのか女三宮は光源氏を引き留めます。その様子がまるで子どものようでかわいいので、光源氏もついほだされてもう一晩泊まることにしたのでした。翌朝、涼しいうちに帰ろうと早く起きた光源氏は、夕べいた御座所のあたりで扇子を探していました。すると敷物が少し乱れているところが。なにやら緑色の薄紙が押し込まれています。手に取ってみれば一通の手紙。柏木の字です。読むともなしに眺めていると、女三宮とのことが細々と綴ってあります。

「こんなものをこんなところに散らかしておいて。なんて幼い」。まだすやすや眠る女三宮を見下すような気分になります。光源氏はその手紙を手にしたまま二条院に戻りました。ちらりとその様子を目にした侍従は「あれはもしや」と気が気ではありません。女三宮に確認しましたが、手紙が見つかるはずもなく、「まあ、大変!」侍従は女三宮をとがめ、女三宮はおろおろと泣くばかりです。

光源氏は人のいないところでこの手紙をつらつら読み直します。最初は信じられませんでした。「女房が柏木の字をまねて書いた?」「いや、この書き方は間違いない」「こんなに誰のことかわかりやすく書かなくても」「私なら、万一手紙を落としてもごまかせるように書いた」とあれこれ思い、柏木への軽蔑がわいてくるのでした。

「ああ、思いもよらぬ懐妊も、このせいだったのだ。それにしても女三宮をどう扱うべきか。自分は柏木ごときと比べられるような男ではないだろう」などとあれこれ煩悶します。そしてふと思い当たったのでした。「父は、父帝はやはり私の犯した罪をご存じでいながら、知らない顔をしていたのだろうか。なんと恐ろしい自分の罪か」。父の目をごまかしおおせたと思った藤壺との密通。もしや、桐壺帝はそれを知っていながら知らない顔を通してくれたのではないか。もし、そうだとしたら桐壺帝は非常に大きな人物といえますね。

「私には二人の恋路を責めることはできない…」光源氏は複雑な思いにさいなまれるのでした。(この項終わり) 

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学39」 隠したはずの手紙が… (1)

■紫の上が息を引き取った?
あの女楽の日以来、紫の上は病みついたまま、いっこうに回復の気配を見せません。光源氏も心を込めて看病しますが、はかばかしくありません。本当のところなら、紫の上一人に心を注ぎたいところですが、彼女よりも身分の高い女三宮についてはないがしろにするわけにもいかず、時折は、女三宮のところにも足を運ぶことがありました。

しかし、そうやってたまに足を運んでも、やはり心にかかっているのは紫の上のこと。いまはどうしているのか、苦しんではいないか、ふとした折に彼女のことが気になって仕方ありません。一度行くとすぐに帰るわけにもいかず、紫の上を気にかけながら、女三宮のもとで過ごしていました。

そこへやってきたのは二条院からの使い。「もしや」の悪い予感は当たりました。「紫の上が息を引き取られました」という知らせ。光源氏は目の前が真っ暗になったような気持ちです。急いで二条院に戻ると、女房たちも取り乱して右往左往しています。快癒祈願の御修法をしていた僧たちも祭壇を壊し、まばらになっています。まさに人が死んだという状況です。

光源氏は、もう一度目と目を合わせたい、臨終に会えなかったのが悲しいと嘆き、物の怪の仕業ではないかと祈祷を続けさせます。すると、なんということでしょう。紫の上が病みついていた間、いっこうに姿を見せなかった物の怪が依りましの童にのりうつり、大きな声を上げます。同時に、紫の上の顔に血の気がよみがえり、息を吹き返したのです。

物の怪は「六条院お一人に伝えたいことがあります」と人払いを告げます。「命もなくなりそうに嘆いている姿を見ると、昔の恋心が残っているからこそ、このような浅ましい姿になりながらもこうして現れたのです、本当は姿など見せとうはなかった」などと告げます。髪を乱しながら嘆くその姿は、あのときの。

そう、この物の怪はあの六条御息所の死霊だったのです。光源氏は「よくない狐などが死者の名誉を汚すこともある。はっきり名乗り、誰も知らないようなことを言えば信じる」と、毅然と対応しようとします。しかしその口から出てくるのは確かに光源氏と六条御息所しか知らないことばかり。ひどい人、と嘆きながらも恥じ入る姿も昔の六条御息所そのままです。

聞けば、夫婦の語らいの中で六条御息所を「扱いにくい、性格の悪い女」といったのが恨めしかったのだとか。死んだ後もこのように恨みを抱く六条御息所の姿には身震いを感じます。ようやく物の怪を封じ込め、紫の上をほかの場所に移して、人心地を得たのでした。

息を吹き返したとはいえ、紫の上はまだ病の床に伏したままです。光源氏はますます彼女のそばを去らず、看病に心を砕き、女三宮のいる六条院には、足を向けることも忘れていました。(次回に続く)

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