「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学39」 隠したはずの手紙が… (2)
■なんだ?この手紙は
一方、六条院の女三宮。あの、柏木との思いもよらぬ密通以来、この事実を光源氏に知られるのではないかと、気が気ではありません。柏木は時折、夢のように彼女を訪れ、思いの丈を語らって帰るのでした。柏木は当代屈指のイケメンです。家柄もよく、あこがれる女性も多かったでしょう。しかし、少女時代から光源氏のような男になじんだ女三宮の目には、どうということもありませんでした。ただただ疎ましく、そんな男と心ならずも関係を結んでしまったことが悲しく、光源氏に知られることが恐ろしいと思っていました。
あの悪夢の夜から、一月以上がたったでしょうか。女三宮の体調に変化が見られました。顔色が悪くなり、食欲もありません。どうやら妊娠した様子。光源氏もそう聞かされてようやく重い腰を上げ、女三宮のもとを訪れることにしました。
一方、女三宮。あのことばかりが気になり、心がとがめて光源氏に会うのも気が引けます。光源氏は光源氏で、女三宮が妊娠したことについて、長年連れ添った妻たちにもそんなことはなかったのに不思議な。と思っています。ただ、つわりに苦しむ女三宮の様子が痛々しく、やはり気にはなるのでした。
でも、光源氏の心は紫の上にあります。女三宮のもとにいる間も、間を置かず紫の上に手紙を送っていました。一方女三宮にも手紙が届けられます。見れば柏木から。大げさなラブレターです。女三宮はそんなもの、「気分が悪くなるから」と読む気もしませんが、柏木を手引きした侍従はこっそり開いて読ませます。そこへ光源氏が入ってきたのでした。あっ!と思った女三宮は、胸がつぶれそう。慌てて敷物の下に手紙を隠しました。
夜になって光源氏は二条院に戻ろうとします。しかし、何を思ったのか女三宮は光源氏を引き留めます。その様子がまるで子どものようでかわいいので、光源氏もついほだされてもう一晩泊まることにしたのでした。翌朝、涼しいうちに帰ろうと早く起きた光源氏は、夕べいた御座所のあたりで扇子を探していました。すると敷物が少し乱れているところが。なにやら緑色の薄紙が押し込まれています。手に取ってみれば一通の手紙。柏木の字です。読むともなしに眺めていると、女三宮とのことが細々と綴ってあります。
「こんなものをこんなところに散らかしておいて。なんて幼い」。まだすやすや眠る女三宮を見下すような気分になります。光源氏はその手紙を手にしたまま二条院に戻りました。ちらりとその様子を目にした侍従は「あれはもしや」と気が気ではありません。女三宮に確認しましたが、手紙が見つかるはずもなく、「まあ、大変!」侍従は女三宮をとがめ、女三宮はおろおろと泣くばかりです。
光源氏は人のいないところでこの手紙をつらつら読み直します。最初は信じられませんでした。「女房が柏木の字をまねて書いた?」「いや、この書き方は間違いない」「こんなに誰のことかわかりやすく書かなくても」「私なら、万一手紙を落としてもごまかせるように書いた」とあれこれ思い、柏木への軽蔑がわいてくるのでした。
「ああ、思いもよらぬ懐妊も、このせいだったのだ。それにしても女三宮をどう扱うべきか。自分は柏木ごときと比べられるような男ではないだろう」などとあれこれ煩悶します。そしてふと思い当たったのでした。「父は、父帝はやはり私の犯した罪をご存じでいながら、知らない顔をしていたのだろうか。なんと恐ろしい自分の罪か」。父の目をごまかしおおせたと思った藤壺との密通。もしや、桐壺帝はそれを知っていながら知らない顔を通してくれたのではないか。もし、そうだとしたら桐壺帝は非常に大きな人物といえますね。
「私には二人の恋路を責めることはできない…」光源氏は複雑な思いにさいなまれるのでした。(この項終わり)
※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。
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