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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学38」 悲劇の幕は上がった(2)

■女主人の寝室に男を引き入れる女房

柏木は中納言に昇進しました。帝の信任も厚く、将来を嘱望された人です。女三宮の姉の女二宮を妻にしていましたが、女三宮よりも出自の低い女二宮では飽きたらず、相変わらず心の底では女三宮を思い続け、女三宮の女房の小侍従に何とか便宜を取りはからってくれるよう、せっついていました。この小侍従は柏木の乳母の縁続きだったため、柏木は昔から女三宮の様子を聞いていたのでした。

柏木にとって、紫の上も光源氏も六条院から離れているいまは、人目も少なく、大きなチャンスです。なんとか物越しに話ぐらいでも…と、とても低姿勢で小侍従に頼みます。柏木にとって女三宮との唯一の絆はこの小侍従です。ですから低姿勢にならざるを得ません。でも、柏木の熱意というか、執着が小侍従を動かし、なんとかやってみましょう、ということになりました。

それは賀茂の祭りの御禊が間近に迫った4月10日過ぎのこと。もちろん、光源氏は紫の上のところに行ったきりです。祭りの前日とあって、女房たちの一部は齋院のお手伝いに出かけなければいけません。また、ほかの女房たちも準備に忙しく、ある女房は恋人に呼び出されて留守。女三宮のそばは小侍従だけという(柏木にとっては)千載一遇の機会がやってきました。

小侍従はこれがチャンスと、柏木を女三宮の寝所に導き入れました。こんなに近くまで寄らせなくても、御簾越しに声だけ聞かせればいいのに、小侍従は出過ぎたまねをしたのかもしれないし、男性の性を甘く見ていたのかもしれません。それまで眠っていた女三宮はふと、男性の気配を感じて目を覚まします。光源氏かな、と思いました。でも、それにしては様子が違います。しかも自分をベッドの下に抱き下ろすではありませんか!

さらに、ずっと昔からお慕いしていました、とか、あはれとだけでもおっしゃって、とか、訳のわからないことをあれこれとかき口説きます。女三宮は「ああ、以前から手紙を寄せていたあの人か」と思い当たりますが、それでも知らない男に抱き寄せられて、恐怖はつきません。汗もしとどに流れ落ちます。

一方柏木。初めて間近にみる女三宮は、姫宮の威厳や重々しさよりも、ひたすら可憐で、かわいらしく、上品で柔らかな雰囲気が勝っています。その姿に、押さえていた理性も吹き飛び、このまま女三宮を連れて去ってしまいたいと思うほどでした。

どれほど時間がたったのでしょうか。柏木は短いまどろみの中で夢を見ました。あの子猫を女三宮に差し上げた夢。どうして差し上げてしまったのか、と思っているうちに目が覚めました。横では女三宮が呆然としています。そのものずばりの表現はありませんが、この部分の描写から、柏木が無理矢理に女三宮と関係を持ったことがわかります。そこで女三宮は初めて、あの猫が御簾を巻き上げ、柏木に姿を見られたことを聞かされます。「こんなことになって光源氏様にどんな顔でお目にかかればいいのか…」目の前の柏木のことよりも、光源氏に知られることの方が、女三宮には恐ろしいのでした。

光源氏の運命の凋落を示すような若菜の巻。紫の上の病気は、光源氏のエゴが招いたものでしょう。出家を許されず、不安定な地位の紫の上。しかも女三宮と同じ席で女楽に臨まなければなりません。積もり積もったストレスが、彼女をむしばんだ結果といえるのではないでしょうか。

そして女三宮と柏木の過ち。深い考えもなく男を女主人の寝室に導く小侍従。人が少ないのに、恋人の呼び出しに応じて出て行ってしまう女房。女三宮の女房たちは、主人を守るという意識が欠けていたとしかおもません。その結果招かれた二人の過ち。物語に広がった大きな波紋は、どのような悲劇を招くのでしょうか。(この項終わり) 

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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