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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学37」 運命を変えた猫のいたずら(2)

■御簾の向こうに立つ人は…

さて、光源氏たちがこうしている間、一人の男が密かな思いに身を焦がしていました。それは太政大臣(もとの頭中将)の長男、柏木。いまは右衛門督という役職に就いていますが、ここでは柏木、という呼び名で統一しておきましょう。

以前、女三の宮の婿選びの際、ちらりと登場したことがありますが、ご記憶でしょうか。柏木は以前から身分の高い妻がほしいと願い、女三の宮の結婚の際にもその意思を示していたのに、結局女三の宮は光源氏の妻になってしまい、残念に思っていました。それでもあきらめきれず、女三の宮の乳母子で、男女関係にあった小侍従という女房から女三の宮の様子を聞いたりして慰めにしていました(この小侍従との関係は男女関係ではありますが、身分の違いもあり、結婚を前提としない軽い関係だと考えてください)。

小侍従からは女三の宮が紫の上に押されていることや、光源氏の扱いもいまひとつ、といったようなことも聞かされます。その度に柏木は、「自分ならそんな思いはさせないのに」「光源氏が出家したら、そのときは…」などと女三の宮を思い続けているのでした。

そんなある日、六條院に蛍兵部卿宮や柏木、夕霧などの公達が集まる日がありました。ちょうど桜の時期です。することもなくて退屈な光源氏は、自分のいる春の町に彼らを呼び寄せ、蹴鞠をさせることになりました。時は春、桜に夕日が映えて美しい場面です。

蹴鞠は当時としてはカジュアルで、不作法な遊びとされていましたが、当代一、二を競うような貴公子たちがこれに興じている様子はなかなかの見ものです。そうなると女子たちは気もそぞろ。みんな御簾のそばまで出てきて、それぞれに貴公子たちの様子を見物しています。「やっぱり柏木様ってステキ!」「夕霧様にはかないませんわ」なんて口々に言っていたのかもしれません。このあたり、イケメンスポーツ選手に熱狂する現代の若い女性たちと何ら変わらないと思っていいでしょう。

ゲーム途中、夕霧と柏木は階段に腰を下ろしてこの様子を眺めていました。そのとき、女三の宮の飼う小さな唐猫が大きな猫に追いかけられて、御簾の端から走り出してきました。さらに悪いことに猫の首に付けられたひもが御簾を引っかけ、中が見えるぐらいに引き上げてしまったのです。女房たちはオロオロして、これに気がつきません。

柏木はそこに袿姿で立っている人の姿を見てしまいました。紅梅重ねの上に桜重ねの細長と呼ばれる衣装を着て立っている人は髪が長く、ほっそりと小柄でとても可憐です。これには夕霧も気がついたので、咳払いをするとこの人は中に入っていきました。「あの方に違いない!」柏木の胸は締め付けられるようです。当時、夫や親兄弟以外には姿を見せてはいけないとされた高貴な女性。その姿を垣間見ることができたのですから。はじめて見た女三の宮の姿に心奪われ、この日から柏木の恋心はつのる一方。

女三の宮としては姿を見られたのは偶然のアクシデントでした。でも、彼女には大きな失敗がありました。それは端近なところで「立っていた」こと。当時、女性は座っていたり、寝そべっているのが常でした。移動するときも膝行し、立って歩くなんてとんでもない不作法なことだったのです。なのに、外から見えそうなところで立っていた不作法でたしなみのない女三の宮。それに気づかず、恋心をつのらせた柏木も、この先に待っている不幸にはまだ気がついていません。(この項終わり) 

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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