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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学36」軽い女、ずるい男(2)

■だからこの人は…

もちろん、こんなことで引き下がる光源氏ではありません。「いったん立った浮き名はいまさら消せるものでもない」と、朧月夜のところに行くことにしました。紫の上には「末摘花が病気でね。昼間、人目に付くときに行くのも格好悪いので、夜に行ってきます。人に知らせるのもやめておこう」と言い訳をします。

ここで、紫の上はもう、ピンと来ています。末摘花のところに行くのに、いつもと違ってずいぶんウキウキした様子。いつもの紫の上なら、チクリと一言言いそうな場面ですが、読者はここで紫の上の心の変化をありありと見せられることになります。「 姫宮の御事の後は、何事も、いと過ぎぬる方のやうにはあらず、すこし隔つる心添ひて、見知らぬやうにておはす」、つまり、女三の宮がやってきたあとは、昔と違って光源氏との間に距離ができ、知らぬふりをしていた、というのです。紫の上の冷え冷えとした心が伝わるような一文です。

そんな紫の上の心など気づきもせず、光源氏は朧月夜の元へ。突然の訪れに驚く朧月夜。連絡係の女房は、思わせぶりにしてお返しするのも都合が悪いでしょう、と無理矢理光源氏を通してしまいました。光源氏は「もっと近いところまで出てきて。几帳越しでもいいから。昔みたいなあるまじき心はないからさ」と語りかけます。それを聞いた朧月夜はため息をつきながら近くまで出てきました。

「思った通りだ。だからこの人は軽いんだよね」と光源氏は思います。自分で口説いておいて、ひどい言いぐさですね。だけど、そういわれるだけのものが朧月夜にはあるということです。ほかの女性に比べて落ちやすい、口説きやすい女、だから軽いといわれるのです。

朧月夜も、光源氏と語らううちに、もう一度ぐらいいいのでは…と心が揺らいできます。それまでは過去を悔やみ、身を慎んで生活していましたが、やはり昔が懐かしく、光源氏を拒み通すことができませんでした。朧月夜だって光源氏が決して自分のものにならないことぐらいわかっています。ひとときの逢瀬を楽しみに来たずるい男。そうと知りつつ身を任せる朧月夜。大人の恋の余韻を残し、夜は明けていきました。

もし、ここで朧月夜が光源氏を拒み通していたら、どうなっていたのでしょうか。彼女は光源氏の心に強烈な印象を残し、朝顔斎院と同じような位置を占めることになったでしょう。だけど、口説けばすぐに落ちる女、なびきやすい、軽い女と思われてしまいました。二人の恋の思い出は、いまでも大切かもしれません。でも、光源氏の心に、一抹の軽侮を残したことは間違いありません。これは朧月夜の失敗といえるでしょう。(この項終わり) 

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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