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2009年3月

「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学31」 中年・光源氏の複雑な親?心 2

Midori

■蛍の光に惑わされて

春が終わり、夏がやってきました。外は五月雨の季節です。相変わらず光源氏は女房たちの目を盗んで玉鬘に言い寄っています。その度に玉鬘は戸惑い、何とかうまくあしらって切り抜けているのでした。

でも、ここでさすがに光源氏も中年になったな、と思うのは決して強引に関係を結んだりしないこと。若いころであれば、人妻の空蝉でも、出会い頭の朧月夜でも、紫の上でも、自分の気持ちに従って、強引に関係を結んでいました。だけど、中年のいまはチャンスはいくらでもあるでしょうが、やはり分別盛りなのでしょう。無理矢理に手出しをすることはありません。だけど、まだ乙女の玉鬘にはそれでも恐ろしいことなのでした。

ある夜、兵部卿宮が六條院を訪れました。光源氏は彼を玉鬘のいる西の対へ招き入れます。といってもまだ男女の関係に至るわけではありません。とりあえず、ちょっと人づてにお話をして、女の気配だけを感じさせるという段階です。部屋からは玉鬘のお香の香りが漂い、衣擦れの音が聞こえます。兵部卿宮はそうした気配の一つひとつに玉鬘のたしなみを感じ、ますます心引かれます。光源氏は少しだけ、戸口に近いところに来るよう、玉鬘に促しました。

おもむろに玉鬘の几帳のそばに近づく光源氏。彼女はその几帳の奥にいます。几帳の帷子を1枚だけあげて、玉鬘のそばに光るものが差し出されました。実は夕方、蛍を集めて薄い紙か何かに包んで隠し持っていたのです。夏用の薄い几帳ですから、当然内側に光があれば内部の様子が分かります。兵部卿宮は几帳の向こうにくつろぐ玉鬘の姿を一瞬ですが、ほのかに見ることができました。

このシーンは、源氏物語の中でも美しい場面として知られています。飛び交う蛍の灯りに照らし出される美女の姿。それが一瞬だからこそ、男の目にはより印象的に焼き付きます。兵部卿宮はますます玉鬘のことが忘れられなくなりました。このエピソードにちなみ、この兵部卿宮は「蛍兵部卿宮」とも呼ばれています。

なぜ、光源氏はこんなことをしたのでしょう。当時、女性が他人の男性に顔を見せるのは、セックスをしたのと同じような意味を持っていました。この頃の「見る」ということばは、男女が関係を結んだ、という意味だったのです。ですから、蛍のほのかな光とはいえ、娘の顔を男に見せるなんて、とんでもないことだったんですね。

ですが、光源氏はあえてそれをしました。それはなぜでしょう。こうやって玉鬘の顔を見るまで、蛍兵部卿宮は、「光源氏の娘」を口説いていたのです。光源氏の娘だから、美人に違いない、光源氏の娘だから、きっと教養もあっていい女に違いない。そして権勢を極めた光源氏の婿になれれば…。ところが、こうやって顔を見たことで、蛍兵部卿宮は、玉鬘に本当に恋をしてしまいました。

光源氏は「いとよく好きたまひぬべき心、惑はさむ=好色な心を悩ましてやろう」と考えています。玉鬘のことが好きなくせに、ほかの男を惑わせようとする、なにやら複雑な親心(笑)です。

さて、こうやってたきつけられた蛍兵部卿宮の恋は叶うのでしょうか。この結果はもう少し先の話になります。今回は、別にだれが失敗というわけではありませんが、たまには源氏物語ならではの雅で色めいた世界もご紹介したくて、このシーンを取り上げました。(この項終わり)

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学31」 中年・光源氏の複雑な親?心 1

■養父のあやしい恋

夕顔の娘、玉鬘が光源氏のもとに引き取られて数カ月が経ちました。この頃の光源氏は「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることもなしと思へば」と呼んだ藤原道長さながら、権勢を極めていました。位は太政大臣。大邸宅の六條院には自分の妻たちを住まわせ、四季折々の楽しみを享受していました。おそらく、源氏物語でももっとも華やかな世界が繰り広げられるのが、前回取り上げた「初音」の巻から「藤裏葉」あたりでしょうか。

六條院では折々にさまざまなイベントが催されます。例えば3月20日には池に龍頭鷁首の船を浮かべて音楽を楽しむ「船楽」が行われました。遅咲きの桜に加え、藤や山吹などの春の花が咲き、鳥がさえずる中、雅楽寮の人を呼んで音楽を演奏させます。

宴は夜に入っても続き、楽人だけでなく、呼ばれたゲストも歌を歌ったり楽器を演奏したり、雅なひとときが過ぎていきました。ゲストはそれぞれに宴をを楽しんでいるのですが、ちょっとほかのことに気をとられているような人もいます。そのうちの一人が兵部卿宮。この人は光源氏の異母弟です。絵や音楽など芸術に造詣が深い人物として描かれています。

いま、彼が気になっているのは光源氏邸に引き取られたという、新しい姫君のこと。世間では「光源氏が行方知れずだった娘を引き取った」ということになっているので、兵部卿宮は光源氏の娘だと信じ込んでいます。彼は長年連れ添った妻を亡くし、ここ3年ばかり寂しいやもめ暮らしだったこともあり、だれに気兼ねすることもなく、ここしばらくは玉鬘に思いを寄せているのでした。

ほかにも何人もの男性が玉鬘に思いを寄せていました。ラブレターもたくさん届きます。もちろん、兵部卿宮からも届いています。また、髭黒と呼ばれる右大将からも届いていました。この人は生真面目な高官です。そうした中に、内大臣(もと頭中将)の息子、柏木から届いた手紙もありました。玉鬘の実の兄ですが、柏木はそれと知らないので、ラブレターを送ってきたのでした。

おかしいのは、光源氏がいちいちそれをチェックしていること。さらに、兵部卿宮は優雅な人だから返事を出せだの、右大将より身分の低い人には返事を出すなだの、いろいろ指図をします。あきれた養父ぶりです。

だけど、実のところ玉鬘に一番思いを寄せているのは光源氏です。あの夕顔の忘れ形見。彼女にも増して華やかで優雅で、若々しくかわいらしい玉鬘。その面影は次第に光源氏の心からさりがたくなり、光源氏の心は久々の恋に打ち震えます。いまなら父親面をして、玉鬘の几帳の中に入ることもできます。女性が男性にはほとんど顔を見せなかった当時、これは親兄弟と夫、恋人だけに許された特権でした。

ある日、光源氏は玉鬘の元を訪れ、とうとう切ない胸の内を打ち明けてしまったのでした。「かくて見たてまつるは、夢にやとのみ思ひなすを、なほえこそ忍ぶまじけれ。思し疎むななよ=こうやって顔を見ることができるのが夢のようだと思っているけれど、やっぱり我慢できない。どうか嫌わないでください」と彼女の手を取って切々と訴えます。

だけど、玉鬘にしたらいままで養父と思っていた人にこんな風に迫られたらどうでしょう。しかも、光源氏はお金持ちで地位があって美しいとはいえ、もうおっさんです。正直、面倒なことになったと思っているのではないでしょうか。困った親もいたものです。(次回に続く)

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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