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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学31」 中年・光源氏の複雑な親?心 2

Midori

■蛍の光に惑わされて

春が終わり、夏がやってきました。外は五月雨の季節です。相変わらず光源氏は女房たちの目を盗んで玉鬘に言い寄っています。その度に玉鬘は戸惑い、何とかうまくあしらって切り抜けているのでした。

でも、ここでさすがに光源氏も中年になったな、と思うのは決して強引に関係を結んだりしないこと。若いころであれば、人妻の空蝉でも、出会い頭の朧月夜でも、紫の上でも、自分の気持ちに従って、強引に関係を結んでいました。だけど、中年のいまはチャンスはいくらでもあるでしょうが、やはり分別盛りなのでしょう。無理矢理に手出しをすることはありません。だけど、まだ乙女の玉鬘にはそれでも恐ろしいことなのでした。

ある夜、兵部卿宮が六條院を訪れました。光源氏は彼を玉鬘のいる西の対へ招き入れます。といってもまだ男女の関係に至るわけではありません。とりあえず、ちょっと人づてにお話をして、女の気配だけを感じさせるという段階です。部屋からは玉鬘のお香の香りが漂い、衣擦れの音が聞こえます。兵部卿宮はそうした気配の一つひとつに玉鬘のたしなみを感じ、ますます心引かれます。光源氏は少しだけ、戸口に近いところに来るよう、玉鬘に促しました。

おもむろに玉鬘の几帳のそばに近づく光源氏。彼女はその几帳の奥にいます。几帳の帷子を1枚だけあげて、玉鬘のそばに光るものが差し出されました。実は夕方、蛍を集めて薄い紙か何かに包んで隠し持っていたのです。夏用の薄い几帳ですから、当然内側に光があれば内部の様子が分かります。兵部卿宮は几帳の向こうにくつろぐ玉鬘の姿を一瞬ですが、ほのかに見ることができました。

このシーンは、源氏物語の中でも美しい場面として知られています。飛び交う蛍の灯りに照らし出される美女の姿。それが一瞬だからこそ、男の目にはより印象的に焼き付きます。兵部卿宮はますます玉鬘のことが忘れられなくなりました。このエピソードにちなみ、この兵部卿宮は「蛍兵部卿宮」とも呼ばれています。

なぜ、光源氏はこんなことをしたのでしょう。当時、女性が他人の男性に顔を見せるのは、セックスをしたのと同じような意味を持っていました。この頃の「見る」ということばは、男女が関係を結んだ、という意味だったのです。ですから、蛍のほのかな光とはいえ、娘の顔を男に見せるなんて、とんでもないことだったんですね。

ですが、光源氏はあえてそれをしました。それはなぜでしょう。こうやって玉鬘の顔を見るまで、蛍兵部卿宮は、「光源氏の娘」を口説いていたのです。光源氏の娘だから、美人に違いない、光源氏の娘だから、きっと教養もあっていい女に違いない。そして権勢を極めた光源氏の婿になれれば…。ところが、こうやって顔を見たことで、蛍兵部卿宮は、玉鬘に本当に恋をしてしまいました。

光源氏は「いとよく好きたまひぬべき心、惑はさむ=好色な心を悩ましてやろう」と考えています。玉鬘のことが好きなくせに、ほかの男を惑わせようとする、なにやら複雑な親心(笑)です。

さて、こうやってたきつけられた蛍兵部卿宮の恋は叶うのでしょうか。この結果はもう少し先の話になります。今回は、別にだれが失敗というわけではありませんが、たまには源氏物語ならではの雅で色めいた世界もご紹介したくて、このシーンを取り上げました。(この項終わり)

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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