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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学30」 豪華絢爛 六條院のお正月(2)

Hakubai3

■新年早々、外泊ですか?

さて、春とはいえ、まだ日が短い時期のこと。そろそろ日も暮れようとしています。明石の君の部屋へ来ると、御簾からかぐわしい風が漂い、どことなく優美に感じられます。ほかの女性たちに比べると、身分の低い明石の君ですが、たしなみは都の貴女並みです。

硯の周りには趣味の良い本がさりげなく投げ出され、敷物はインポートもののきれいなもの。そばには風情のある琴が置かれています。あたりに散っている紙に書かれた手習いの文字も美しく、本人の教養をうかがわせます。火桶にくゆらせているのは「侍従」というお香。まるで貴族のようなインテリアですが、このお香を焚くことで、自分の出自は忘れていないことを示しています。

本文には書かれていませんが、このように手習いや本を置いていたのは、明石の君の演出だと考えられます。自分の趣味のよさ、教養を光源氏にアピールするいいチャンスだと考えたのでしょうか。光源氏が手習いを手に取り、自分でも少し何か書き付けているときに、明石の君がそっと膝行り出てきました。膝行り出るという行為には、光源氏を主君とし、礼を尽くしている態度が現れています。このあたりが明石の君の賢さ、謙虚さなのでしょう。

さて、今日の明石の君はいつもにも増して美しく見えます。今日の着物は白地の小袿。これは年末に光源氏が贈ったものです。重ねているのは濃い赤紫。趣味のよいコーディネートは光源氏の見立てです。紫の上はこの組み合わせを見てそれを着る人を想像し、密かに嫉妬の炎を燃やしたのでした。

実際、この着物は明石の君にとてもよく似合っていました。その優美な様子に、光源氏の心が動きます。新年第一日目ですが、光源氏は明石の君の元に泊まることにしました。つまり、ことしの○初めは明石の君と、ということです。

でも、春の町では紫の上が光源氏の帰りを待っています。こちらに泊まることにしながらも、紫の上の顔がちらつき「新年早々騒がれることになるかもな」と思います。それでも、明石の君の魅力にはあらがえないのでした。

事実、その頃紫の上は「やっぱり明石の上に対する寵愛は格別なのね」とまた、嫉妬の炎を燃やし、主人を思う紫の上の女房たちは、「なんてひどい男君!」と歯がみします。そんな春の町の様子が目に浮かび、光源氏はまだ朝早く、暗いうちに春の町に戻りました。まだ一緒にいられると思っていたのに、早々と立ち去られた明石の君も、中途半端な思いが残り、寂しさがつのります。あちらへもこちらへも罪作りな光源氏です。

おもしろいのは光源氏の言い訳。「ちょっとうたた寝をして、若い人みたいにいぎたなく寝込んでしまったよ。起こしてくれなかったんだね」と紫の上の機嫌をとります。でも、紫の上はそれも無視。光源氏は居心地が悪く、狸寝入りをして、日が高くなってから起き出したのでした。新年早々、女がらみでやっかいな六條院の1日でした。

新年早々、自分の気持ちに負けて明石の君のもとに泊まってしまった光源氏。同じ邸の中ですが、紫の上にとってはこれは外泊。その後のトラブルを考えると、やっぱりこれは光源氏の失敗ですね。いくら恋人が魅力的でも、新年ぐらいは妻のもとに返った方がいいですよ、という教訓でしょうか。(この項終わり)

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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