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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学29」  内大臣の頭痛の種とは?(2)

Koke

■超早口の新姫君

ある日、内大臣は里帰り中の弘徽殿女御のもとを訪れたついでに、近江の君の部屋を訪れました。部屋をのぞくと、近江の君は五節の君という若い女房と双六を打っている様子です。この双六はバックギャモンのようなゲームで、サイコロを振るという共通点はありますが、いまのような「ふりだし」から「あがり」まで駒を動かすものとはちょっと違います。

二人が双六に興じる声が、内大臣のいるところまで聞こえてきます。近江の君は両手をすりすりさせながら、「小賽(しょうさい)、小賽」とオマジナイを唱えています。それがとっても早口で、声も素っ頓狂。余りに耳障りで、内大臣は「ウゼェ」と思うのでした。相手をしている五節の君は近江の君の従姉妹ですが、こちらも興奮していて「お返しよ、お返しよ」と軽薄そうな様子。内大臣はますます嫌気がさしています。

それでも内大臣はこの不肖の娘に話しかけます。近江の君は父大臣のもとで暮らせることに多いに感謝している様子。内大臣は「せめてもう少しゆっくり話してくれれば私の寿命も延びるだろう」と苦笑しながら話しかけます。それに対し近江の君は「生まれつきなのでしょう、生まれたときに産屋に詰めていたお坊さんが早口だったのにあやかったそうです」などとまたまた早口で答えます。

ここで内大臣は弘徽殿女御への出仕をすすめます。一応名目は「行儀見習い」ということです。近江の君はとっても喜んで「すっごくうれしい。何とか、何とかみなさんに兄弟だと認めてほしいと祈ってるの」と答えます。彼女、いろいろと問題点はありますが、根は素直なお嬢さんなんですね。弘徽殿女御への出仕についても「水汲みをしてもお仕えします」などと殊勝なことを、また早口でいいます。「それではいつ出仕しましょう」とすっかりその気です。内大臣は「そう思うならきょうにでも」と言い置いて近江の君のもとを立ち去りました。

近江の君はさっそく弘徽殿女御に手紙を書こうとします。でも、ここまででもおわかりのように、彼女はひどい田舎育ちのため、基本的な教養が身についていないのです。早口もそのせいです。もちろん、歌や手紙の教養も不十分。弘徽殿女御に書いた手紙は「点がちにて」というものでした。おそらく、字画の点ばかりが目立つような書き方、という意味です。お習字もちゃんとできていないという感じでしょうか。

さらに詠み込んだ歌は、あちこちの歌枕が盛り込まれた、お世辞にも上手とは言えないもの。青い紙に漢字をたくさん使って、角張った書体で書いてあります。しかも気取って書いてあるのか払いが長く伸びていたり、ふらふらして見えたり、行が倒れそうに曲がっていたり、ずいぶんなできあがりですが、ご本人は満足げ。なでしこの花を付けて弘徽殿女御に送りました。もちろん、送った先ではいい笑いものです。

こういう風に書くと、まるで近江の君が失敗しているように見えます。もちろん、ものを知っている身からみれば、彼女のふるまいはおおいに失敗に近いでしょう。「私は無知で無教養」と触れ回っているようなものです。

だけど、ここで考えてみれば失敗したのが誰かよく分かりますね。彼女をここまで無知、無教養でほったらかしにしていたのは、内大臣です。それまで、近江の田舎とはいえ、平穏に暮らしていたのに、急に都へ引っ張り出され、しかも大臣家のお嬢様として暮らすようになったのです。一朝一夕に教養やたしなみが身につくわけがありません。もし、内大臣が近江の君の母親を少しでもケアする気持があれば、ここまで放っては置かれなかったでしょう。

また、側近のあり方も大きいかもしれません。玉鬘は筑紫などという田舎で育ちながらも、一応光源氏に認められるほどの教養とたしなみは身につけていました。これは乳母たちの教育の成果です。だけど、近江の君は誰一人そうした気遣いをしてくれる人がいなかったのでしょう。もし、内大臣が気の利いた乳母の一人でも付けていれば、彼女はもうちょっとましなお姫さまに育っていたかも知れません。そう考えると、やっぱり父親の責任は大きいと感じさせられます。

本日の教訓。外で遊んで遊びっぱなしだと、いずれ報いを受けますよ。責任はきちんとりましょう。ってことでしょうか。(この項終わり)

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。
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