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2008年8月

「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学26」身から出た錆だらけの光源氏(2)

■秘密の恋を漏らした恨み

結局、朝顔の姫君は光源氏を拒み、光源氏は腹立たしくて二条院にも戻らない日が続きました。紫の上は思い乱れるばかりです。久しぶりに光源氏の顔を見るとほろほろと涙がこぼれてしまいました。光源氏は紫の上の髪をやさしくかきあげますが、出てくるのは言い訳ばかり。

「藤壺宮がなくなって、帝が寂しそうにしている上、太政大臣もなくなって仕事が忙しかったんだよ。朝顔の姫君のこと?とりとめもない手紙を出しているだけじゃないですか。寂しいときに手紙を出すと、時々お返事をくれるんだよ。そんなこと、いちいち君に話す必要もないし。心配しなくていいよ」

こんなことを言われて、紫の上が信じられるでしょうか。だけど、この会話に紫の上と光源氏の関係の変化が見られるのです。それまでは紫の上はあくまで藤壺の「代わり」でした。でも、藤壺が亡くなったことで、紫の上は事実上、光源氏の第一の人になったです。ある種宙ぶらりんだった紫の上は、きちんと収まるべきところに収まったともいえるでしょう。

さて、その夜、光源氏たちは庭に雪が降り積もったので女童たちに庭で雪玉を作らせます。雪は結構積もったようで、大きな雪玉は女童たちには転がしきれなくなっているとも書かれています。最近の京都ではそれほど雪が積もることもありませんが、昔はそういうことも多かったのでしょうか。

それを見ながら光源氏は紫の上にいままでに出会った女性の話を漏らしました。藤壺については「この世にあれほどの方がいるんだろうか、という感じだね。柔らかだけど、品がよくて。君はよく似ているけど、ちょっと気が強くてやきもち焼きなところが困るかな」などといいます。そのほか、朝顔の姫君や、朧月夜、明石の君、花散里などについてもそれぞれ話が出ました。

夜も更けて光源氏と紫の上は床につきました。紫の上が隣にいながら、光源氏の胸に浮かぶのは藤壺のこと。少しうとうとしたころでしょうか。夢に藤壺の姿が現れました。その様子はひどく恨めしげです。「二人のことは誰にもいわないといったはずなのに、浮き名が流れて私は恥ずかしく、苦しい目にあって辛い思いをしています」

これってまるで「恨めしや」の幽霊ですね。藤壺は光源氏が紫の上に過去の女性の話をしたことを恨んで出てきたのでした。うなされていたのか、紫の上に起こされた光源氏はわずかに見た藤壺の面影が忘れられず、悲しみでいっぱいです。しかし藤壺のために法会を行うと、世間が怪しむかもしれません。一人心に阿弥陀仏を思い浮かべて供養の祈りを捧げるのでした。

朝顔の斎院にふられ、紫の上の嫉妬を買い、藤壺に恨まれた今回のテーマは「身から出た錆」でしょうか。いずれも光源氏のいままでの行いが巻き起こしたことばかりです。そういえば、あの光源氏に言い寄った老婆・源典侍は70を過ぎたいまも健在で、しかも朝顔の姫君の叔母に仕えていました。朝顔の姫君邸で光源氏に再会した源典侍は、歯のない口で笑い、光源氏に甘えかかってきます。光源氏はぞっとしてそそくさと立ち去りました。これも若いときの戯れが招いたこと。身から出た錆のひとつですね。(この項終わり)


Gokurakuoujouin

写真は大原・三千院の庭
 
※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。
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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学26」身から出た錆だらけの光源氏(1)

■昔の恋心再燃に悩む紫の上

さて、光源氏32歳の秋から冬。もう、若く美しき貴公子ではありません。いまの感覚ならプラス10歳ぐらいの感じでしょうか。もう中年、オッサンといっていい年ごろになっています。そんな年になって、光源氏は昔の恋をどこからかひっぱっりだしてきて、身を焦がしているようです。

光源氏には朝顔の姫君と呼ばれる従姉妹がいました。この人は桃園式部卿宮の娘で、一時賀茂の斎院として仕えていたため、朝顔斎院とも呼ばれます。「朝顔」というのは、光源氏が昔、帚木の巻でこの人に朝顔の花と歌を送った話が出てきたためこの名が付けられています。ということは、ずいぶん古いつきあいの二人ですが、いまだに男女関係にはなっていません。葵の上の死後はこの人が正妻か?という噂もあったのですが、ずっとずっと朝顔の姫君が光源氏を拒んでいるのです。

といっても、頑なに拒否するのではなく、常に一定の距離を保っているという感じ。だから光源氏から手紙をもらえばそれなりに返事も出していました。男女の関係になったら、ほかの愛人たち同様苦しい思いをするのではないか、それよりも光源氏から常に求められる存在でありたい、美しい関係を保ちたいと彼女は考えたようです。特に六条御息所の事件がショッキングだったようで、それ以降は手紙の返事も出さなくなってしまいました。

そんな朝顔の姫君に、光源氏がまたモーションをかけ始めました。藤壺を失ってしまった心の隙間を埋めたいという衝動が光源氏を突き動かしたのでしょう。「朝顔」の巻で、光源氏は朝顔の姫君にしつこく言い寄ります。もちろん、朝顔の姫君の気持ちは以前と変わりません。光源氏のことをキライではないのです。だけど、やはり受け入れることはありませんでした。

このことは世間の噂にもなり、自然に紫の上の耳にも入ります。「長年寵愛されてきたのに、もし彼の気持ちが朝顔の姫君に移ってしまったらどうなるの?いままで誰に負けることもなくここまで来たのに、いまになってこんな…。もし、軽々しく扱われるようになったら…」紫の上は心乱れます。

しかも光源氏はこの恋を紫の上には隠しています。そのことが余計紫の上を物思いにふけらせます。軽いやきもちなら冗談めかして口にすることもできますが、事態を深刻に受け止めた紫の上は、むしろこの問題には触れないのでした。(次回へ続く)

Saiouzakura

写真は季節外れですが、以前にもご紹介した斎王桜。一応、朝顔姫君は賀茂の斎院だったということで…

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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貴船 鳥居茶屋のあゆ茶漬け

7月の京都は31日間ずっと真夏日だったそうだ。イヤもう、本当に暑さ真っ盛り。京都市内にいる限り、この暑さからのがれるすべはなさそうだ。ただ、少し救いがあるのは緑の多い山沿いに行けば多少涼しくなること。

貴船はその好例だ。道は青紅葉に覆われ、せせらぎの音が耳に心地よい。杉林を渡る風が頬にさわやかだ。

Kibune1

貴船の夏の風物詩といえば、川床料理。川の上に渡した川床の上で鮎をはじめ旬の食材を使った会席料理をいただく。川を吹き抜ける風は、ひときわ涼しく感じる。裸足になって足を浸すのも心地よい。

だけど、川床料理はやっぱりそれなりのお値段だ。気軽にひとりランチ、というわけにはいかない。流しそうめんなら1200円から食べられるけど、お腹いっぱいにはならない。これから鞍馬まで歩こうという身にはちょっと物足りなく思えた。

そこで目に止まったのが鳥居茶屋。誰かがここのあゆ茶漬けをすすめてくれたっけ。あゆ茶漬けは1200円から。川床では食べられないけど、このお値段ならOKか。

Kibune2

今回はちょっぴり奮発して鮎が3匹載った上(1900円)を頼む。あゆ茶漬けに鯉の洗い、炊いた茸が付いてくる。鮎は実山椒と一緒に前日から煮込んだものだ。ご飯の上に鮎と海苔、わさびが載っている。熱いお茶をかけてさっそくいただく。まずは鮎を頭からひとかじり。驚くほどの柔らかさ。骨の存在をまったく感じない。こっくりとした味わいだが、わずかに生臭みを感じた。でも、すでに貴船散策で空腹の身にはそんなことも気にならない。ひたすらもくもくと平らげた、貴船の昼下がりだった。

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