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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学25」 出生の秘密を知ってしまった!(2)

Shisinden

写真は京都御所・紫宸殿

■真の父を知った少年帝の悩み

藤壺宮の葬儀が済み、法事も終わって御所には平素の落ち着きが戻ってきました。人の死はこうして一段落付いたころになって、じわじわと寂しく感じるものです。藤壺の息子、冷泉帝も母の死を改めて実感しているころのこと。藤壺の生前から仕えてきた僧がいました。この人は70歳を過ぎていますが、冷泉帝も幼少時からなじみ、信頼も厚く、いつも御所に召されていました。

ある夜、この僧が「申し上げにくいことではございますが…」と改まって冷泉帝に切り出した話がありました。何ごとか、と尋ねると途中まで語りながら、なかなか続きをいおうとしません。「子どもの時からあなたを知っているのにこんな風に隔てを置くなんて恨めしく思うぞ」と冷泉帝がいうと「実は過去来世に渡る重大なお話です」と続けます。

僧が語ったのは冷泉帝が生まれる前のこと。藤壺は深く嘆く様子で僧に祈祷を依頼したのです。その後、光源氏が須磨に退去したときにも、冷泉帝が即位するときまで、続けた祈祷があったといいます。続きを聞いて冷泉帝は驚愕しました。

僧は、冷泉帝の出生の秘密を知っていたのです。いままで何年も胸の奥深くに締まっていましたが、藤壺が亡くなったいま、冷泉帝がこの事実を知らなければむしろ罪を作るのではないかと考え、あえて真実を告げたのでした。冷泉帝はしばらく、ことばも出ませんでした。この事実はこの僧と藤壺の女房だった王命婦しか知りませんが、僧は最近天変地異が起こり、身分の高い人の死が続いたことで、天の怒りを感じて冷泉帝にこれを告げたのでした。

さらにその翌日、光源氏の叔父の式部卿宮が亡くなり、いよいよ世は穏やかならぬ様子です。御所を訪れた光源氏に、冷泉帝は退位をほのめかします。もちろん、光源氏は思いとどまるよう説得します。その顔を見て「やはり自分とよく似ている」と冷泉帝は改めて感じるのでした。「この人が父か」と思えば、いつもとは気持も違い、慕わしく思います。その気持を少しでも伝えたいと思いながら、それは出来ないのでした。

その後も冷泉帝は思い悩むのでした。当然でしょう。冷泉帝は帝とはいえ、まだ十代前半の少年です。様々な書物でこのような事例を調べます。中国では皇統が乱れた例がたくさん見つかりましたが、日本では発見できません。いったん源氏になった人が再度親王になって即位する例は見つかりました。冷泉帝はいっそ光源氏に譲位しようかとも思います。ここで冷泉帝の悩みを改めて確認しておきましょう。冷泉帝は自分が母と光源氏との不義の子だと悩んでいるわけではないのです。父が自分の臣下にいることが問題だと考えているようです。ちょっと不思議な気がします。

そのあとの、冷泉帝が光源氏に譲位をほのめかす場面で、いつもと変わらぬ様子でそれを断る光源氏の様子を冷泉帝は残念に思っていると述べられています。冷泉帝は、光源氏と父子の名乗りを上げたかったのではないかと思われます。とまれ、光源氏はそれを拒み、二人の関係は表面上大きな変化はなく推移します。

僧が冷泉帝の出生の秘密を明かしてしまったのは、僧の失敗かもしれません。あるいは、僧に口止めしなかった藤壺の失敗かもしれません。でも、こうやって冷泉帝が本当の父を知ることは、光源氏が栄華を極めるために必要なことでした。そのお話はもう少し先のことになります。(この項終わり)

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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