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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学25」 出生の秘密を知ってしまった!(1)

■永遠の恋人、藤壺との永別

光源氏32歳の春。前回、明石の君が大堰にやってきてから、少し時間が経ちました。あれから、光源氏の身の回りにはまた、変化がありました。大堰にいた明石の姫君はある雪の日、母と別れて二条院の紫の上のもとへ連れてこられました。

将来帝のお后にするためには、いくら光源氏の令嬢といえども、身分の低い明石の君のもとで育てるわけにはいきません。宮家の姫君である紫の上の養女になり、将来に備えることになったのです。明石の君と娘の雪の日の子別れはとても切なく、名場面のひとつですが、それはまた別の機会ということで。

若木が伸びゆくような明石の姫君に対して、人の死もいくつかありました。ひとつは、太政大臣の死。葵の上や頭中将の父で、光源氏には義理の父に当たります。長い間政治の枢要にあり、帝からも重用されていましたが、老いには勝てず、世を去ってしまいました。

そしてもう一つ、光源氏をこの上なく打ちのめしたのが、藤壺の崩御です。藤壺は春の初めごろから病気で伏せっており、三月には重篤な病状になっていました。折りしも彼女は37歳。当時の女性の厄年でした。冷泉帝も光源氏も気が気ではなく、見舞いに行ったり、祈祷をさせたりと右往左往しています。

藤壺は光源氏にとって永遠の恋人。胸の奥にはいまも彼女への思いが燃え続けています。出家してしまったため、その思いは抑えて来ましたが、せめてお見舞いだけでも彼女の元を訪れました。しかし、容態は思わしくなく、ずいぶん衰弱していると女房から聞かされます。几帳の奥からはかすかすに藤壺の声が聞こえます。「このようなご様子では私も長くは生きられないような気がします」などと光源氏が訴えている間に、藤壺は灯りが消えるようになくなってしまいました。

この、藤壺との永別のシーンは、紫式部から光源氏へのプレゼントではないかと私は考えています。初恋の、そして永遠の恋人の死に立ち会うことによって、光源氏の心の中にひとつのピリオドが打てたのではないでしょうか。もし、藤壺の死を人づてに聞くだけであったら、光源氏はいつまでもその死を実感できなかったと思います。

もちろん、光源氏の嘆きは一通りではありません。折から、桜の咲く季節。桜を見て「ことしばかりは」とつぶやく光源氏。これは古今集の「深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染めに咲け」という人の死を悼む、上野岑雄の歌の一部を口ずさんだものです。京阪電車をご利用の方なら「深草」と「墨染」が読み込まれているのに気づかれるでしょう。(次回へ続く)

Sumizomesakura

写真は季節はずれですが京都御所、雨に濡れそぼつ桜 墨染の桜をイメージして

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)より転載いたしました。

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