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「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学21」ごめん、すっかり忘れてた!(1)

■忘れられた女の孤独
明石から戻った光源氏は、中央政界に返り咲き、多忙に過ごしています。仕事に精を出しているかと思えば、亡き父・桐壺院の法会を執り行ったり、明石で生まれた娘に乳母を派遣したり、かつての愛人たちを訪れたり、華やかな毎日です。

光源氏といえば、一度関係を結んだ女たちのことは忘れない、とよくいわれていますが、実のところそうでもなかったりします。みなさま「末摘花」というお姫さまを覚えておいででしょうか。そう、あの常陸宮の姫君。源氏物語一番のブス、赤鼻のお姫さまです。

宮家の血をひく彼女、生まれは高貴ですが、父宮が亡くなって後は非常に貧しい没落貴族として暮らしていました。そこへ白馬の王子様のごとく訪れたのが光源氏。末摘花のくらしを援助し、窮状を救いました。ところが光源氏の須磨退去で援助はとぎれ、彼女のくらしは再び貧窮します。

周囲の女房たちも一人辞め、二人去り、離散していきました。年老いた女房たちの中には亡くなった人も。女房たちは末摘花に「邸を売って引っ越しを」とすすめますが「父君の形見の邸を売るなんてとんでもない」と頑なに聞き入れません。道具類も由緒正しい立派なものがそろっていますが、同じ理由で手放さないため、ほこりをかぶったまま。

邸は荒れ果て、フクロウが鳴き、狐が住み着き、お化けでも出そうな気配。時には牧童が牛を放し飼いにする始末。おまけに台風で廊下の一部が壊れたり、下仕えの人が住む小屋がつぶれたり、炊事すらままならない有様で、泥棒も寄りつきません。

そんなところへ聞こえてきたのは光源氏帰京の噂。長年待ち続けた人が戻ってきたのです。しかもあちこちの女性のところへも尋ね歩いている様子。末摘花は光源氏の訪れをいまかいまかと待ち続けました。でも、まったく思い出してもらえる様子もありません。悲しみは光源氏の帰京前よりいやまさります。末摘花は人知れず涙に暮れるのでした。

そんなときやってきたのが母の妹で受領の妻に没落している叔母。彼女は末摘花を自分の娘の女房にしようと考えていたのです。末摘花は頑なに断り、光源氏を待ち続けます。そうこうするうちにこの叔母の夫が太宰の大弐になり、叔母も一緒に赴任することになりました。末摘花を再び誘いに来た叔母は「光源氏様は紫の上しか興味はないよ。昔から通っていた人からもすっかり心は離れてしまったんだって。こんなあばら屋に住んでる人なんか、尋ねてくることはないでしょうね」などと意地悪なことばを投げかけます。さすがの末摘花を涙をこらえられません。

さらに悲しいことに、長年一緒に育った乳母子の侍従という女性が太宰大弐の甥と恋仲になり一緒に太宰府に下ってしまうことになりました。唯一心許した乳母子すらそばから去り、末摘花の孤独はいやまさります。毎日泣き暮らす日々が続きました。でも、赤鼻のお姫さまが泣くわけで、一層鼻はまっ赤っか。紫式部は「まるで赤い木の実を顔にくっつけているみたい」と意地悪な書き方をしています。(次回に続く)

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