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源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学15 王朝貴族のプライバシーと情報戦略 

今回は源氏物語の情報戦略について。戦略って、ちょっと大げさですが、この時代でも情報のコントロールは必要だったというお話。前後の話のつながり上、1回で掲載したので、少し長くなりますが、最後までおつきあいよろしくお願いします。

◆情報を操作する女房ネットワーク

「雨夜の品定め」で有名な「帚木」の巻には、「人の品、高く生まれぬれば、人にもてかしづかれて、かくるることも多く、自然にその気配、こよなかるべし。」という一節があります。(女性が)高い身分に生まれた場合、周囲にかしずかれて欠点も隠され、自然にいい女に見える」といったような意味です。

上流の女性はたくさんの優れた女房たちに囲まれています。平安時代、この女房たちのネットワークは強力な情報網でした。女房ネットワークにはあらゆる情報が流れます。たとえば、どこそこの中納言様は今度大納言様に昇格されるそうだとか、どこぞの若君があのお姫様にご執心だとか、あの奥様に二人目の赤ちゃんが生まれるとか、様々な情報が駆けめぐります。

そんな状態じゃ、主家のプライバシーなどないに等しいように思われますが、女房たちにとって主家の利益は自分たちの利益。できる限り、主家にプラスになるような情報を流すでしょう。ですから主家のお姫様について誰かに聞かれても、欠点は隠し、長所を挙げるというのが女房たちの情報のコントロール方法でした。

たとえば、源氏物語一の不美人・末摘花のことも、光源氏に伝えられるときは容姿や性格についてはまったく触れられず「琴を友に寂しく暮らしている」というロマンチックなお話だけが伝えられています。まあ、末摘花の場合、没落貴族なので上流とは言い切れない部分もありますが、貴族の女性たちの素顔は女房たちのネットワークによって情報操作されていたことがうかがえます。

女房たちの善し悪しは情報操作の質をも左右します。後年、光源氏の若い妻となる女三宮は柏木という若い男性と密通していましたが、彼の手紙を隠しそこなって光源氏に見つけられてしまいます。この事件をきっかけに、柏木は病死し、女三宮は不義の子を出産後出家するという悲劇に見舞われます。

女三宮の女房たちは子どもっぽく、軽いタイプの女性がそろっていたと書かれています。彼女たちは女主人の不義を上手に隠すすべを心得ていなかったのでしょう。もし、主人の情報をきちんと守れる大人の女房なら、こんな悲劇は起こらなかったかもしれません。

◆私たちは自分でコントロールする

さて、翻って現代はどうでしょう。たとえば政治家を例に取ってみます。国会議員なら、情報戦略にも相応の予算をかけられるでしょうから、ウェブサイトでもそれなりに完成度の高いものを発信することができます。実際、有名な政治家のサイトを見ても、それなりのプロが作ってるんだな、ということがよくわかります。もちろん、発信する情報についても十分精査されているはず。無用の情報や本人に不利な情報を発信することはありません。これは上流の女性が欠点を隠されるのと同じようなものです。

ところが、地方議会の議員などになると、自分でウェブサイトを作っているのか、素人に任せているのか、ずいぶんずさんなものが見つかったりします。先日、まったく別件で検索をしていたところ、とある県議会議員のサイトのディレクトリにある資料にアクセスできてしまいました。そこには何と、その県の職員全員の名簿が。局や課、係と行った細かい所属まで明記されていて、誰が何を担当しているかはっきりわかります。そういったものを簡単に見られるところに置いておくのはいかがなものでしょう。

さらにこの人、自分のプロフィールに現在の役職や家族のことまでずらずらと書きたてています。なんたら研究会の会長だの、ナントカ業協会の顧問だの、消防団の団員だの、名誉職がうれしいんだか何だか、いっぱい羅列してあります。なかには何某中学校PTA会長といったものも。家族は妻と子どもが何人か。名前も誕生日も丸わかり。PTA会長をしているということから、息子が通っている中学校の名前までわかります。ここまで細かい情報を出す必要はありませんというより、出してはいけません。

たとえば、子どもたちの誕生日。自分の誕生日をキャッシュカードの暗証番号に使うのはいまや非常識ですが、子どもの誕生日を暗証番号にしている人はまだいるのではないでしょうか。この県議の妻がそうしていないとは限りません。あるいは、子どもの学校も名前も誕生日もわかっている場合、誘拐のターゲットにされる可能性もあります。

この県議は情報のコントロールということをあまり理解していないのかも。国会議員のように予算をかけられないからとか、アドバイスしてくれるブレーンがいないからといった言い訳はあるでしょう。でも、どの情報を公開し、どの情報を非公開にするか、といったことは自分でも選択できるはずです。

源氏物語から現代にいきなり飛んでしまいましたが、いずれも情報をいかに発信するか、いかにコントロールするかが大切、ということです。これは一般人のブログなどにもいえることです。発信する内容を十分精査しなければ、炎上したり、プライバシーがだだ漏れになったり、いろいろな問題が発生します。みなさまなら十分理解されていると思いますが、どんな情報を発信すれば、自分にとってメリットがあるのか、これは書いても大丈夫か、女房のいない私たちは自分で考えなければいけない、というお話でした。

※本稿は関西インターネットプレス(KIP)に加筆訂正の上、転載いたしました。

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